こんな恐ろしい男に目をつけられて、いまだに対等に、それこそさっきみたいに生意気な態度で言い返せている千歳って、本当にすごい。
ずっと思ってたけど、あの子って控えめそうに見えて、だいぶ人間離れしたコミュ力を持ってるよな。
多分、普通の人間なら萎縮して何も言えなくなる場面でもきちんと言葉で殴り返すから、相手を喜ばせてしまうんだろう。
そう考えると、篤彦くんの同室が千歳だったのは、むしろ良かったのかもしれない……。
と、そんなことを思いかけてすぐに、待てよ、と思いとどまった。
千歳が葵や霞を手玉に取って、見事に主導権を握っていたときのことを思い出す。
あの時のあいつは、一見完璧に立ち回っているように見えて、裏ではボロッボロに消耗していた。
つまり千歳は、度胸があるように見えるだけで、実際は決して無傷でいられるような無敵の完璧人間ではないのだ。
きっと今も、俺なんかには想像がつかない程に精神が擦り切れているはず……。
と、そんなことを考えていると、どうしても放って置けなくなってきて。
「……千歳に絡むのやめてあげたらどうですか?」
深く考えるより前に、自然とそんな言葉が溢れていた。
言われた篤彦くんは、ニコニコといつもの胡散臭い笑みを浮かべて、こっちを見る。
「ヤダね」
「ヤダねって……」
子供か。
思わず呆れるけれど、ここで下手に食い下がったとて、俺が彼に勝てる気は微塵もしなかった。
黙って俯く俺。会話が途切れ、再び沈黙がスタジオを支配する。
