「っ……!」
息が、止まる。
気づいた時には、私はその腕にぎゅっと抱きしめられるような形でホールドされていた。
頬に胸板が密着する。慣れない香水の匂い。
時が止まったような沈黙。
私が硬直して動けずにいると、すぐに腕がほどけ、パッと突き放すように身体を離された。
頭上から、呆れ混じりのため息と共に苦い声が落ちてくる。
「……何回転ぶの?お前」
……この声、まさかとは思ったけど。
助けてくれたのって──
恐る恐る、顔を上げてみると。
私のそばに立っていたのは、天鷲翔だった。
光に透けて青みがかった黒髪、太陽の光を拾う揺れるピアス。
涼しげな目元が、こちらを静かに見下ろしている。
私は思わず目を見開いた。
……びっ、くり、した。
この人って、私のこと助けてくれるんだ。
勝手なイメージだけど、この人は私が転びそうになっても、『どうして俺がお前の面倒見なきゃいけないの』とか言って、横目で見ながらそのまま通り過ぎるタイプだと思っていたのに。
衝撃で何も言えなくなる私に、翔はちょっと怪訝そうに眉根を寄せると。
「前見て歩いて」
それだけぶっきらぼうに言い捨て、さっさとすれ違ってスタジオに入ってしまった。
さぁ、と残る冷たい香水の匂い。
残された私はというと、予想外の出来事に焦ってしまって、いまだに心臓がバクバクと高鳴っていた。
背中に複数の視線が突き刺さる気配を感じて、一気に居た堪れなくなってくる。
……と、とりあえず、外に出ようか。
私は完全に取り乱しながらも、自分の落ち着かない心音を誤魔化すように、そそくさとスタジオの外へと逃げ出すのだった。
