「なんでですか。何か用でも?」
「デート♡」
「げほっ!」
油断してペットボトルの水を飲んでいた私は、見事にむせ返ってしまう。
い、今なんて……?
「げほっ、げほっ、……え、けほっ、誰と、」
身体を折り曲げ、目に涙を浮かべる私。
篤彦はそんな私を前にしても特に悪びれもせず、むしろ楽しそうに肩をすくめるだけ。
「ここ来てから知り合った女の子」
その言葉に、私は納得してちょっと目を細めてしまった。
……なるほど。
やっぱり、彼がブラジルに来てからやたら夜の街に出ていたのは、その女の子のためだったらしい。
部屋に帰ってきてもスマホを手放さない日も多かったし、誰かとメッセージをしているような気配もあったから、薄々そんな気はしていたけれど……。
にしても、あのプロ意識の塊みたいな椎木篤彦がリスクを冒してまで追いかけるなんて、いったいお相手はどんな目の覚めるような美人さんなんだろうか。
「そんなに可愛いんですか?」
「うん。ノリもスタイルもええし。あとは何かと使えそうな子やねんな」
『何かと使えそう』……?
思わず眉根を寄せる。
この人の彼女選びの条件に『使えるかどうか』が入っているのは何なの?何様?なぜ自分が人を『使う』側の立場にいると思っているの?
ツッコミどころがありすぎて逆に何も言えなくなる私をよそに、篤彦はニコッとご機嫌そうな笑みを携えて続ける。
「ま、次の日の朝のレッスンには間に合うように頑張るわ」
その言葉に、思わずぴたりと動きを止めた。
