さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



朝七時、ダンススタジオ。

開け放たれた窓の向こうからは、まだ完全には熱を帯びていない風が入り込んでくる。


車のクラクション、どこかの店がシャッターを上げる金属音、鳥の声。

そんな朝の落ち着いた空気を感じながら、私は鏡の前で、ひとりストレッチをしていた。


昨夜の睡眠不足が響いて、まだ少し半覚醒状態。

あくびを噛み殺しながら、陽光を拾って光る埃の粒をぼーっと見つめていた、その時だった。


「千歳、早いね」


背後から声をかけられた。

慌てて振り返ると、入り口に立っていたのは雪斗。

その背後には、まだ若干眠そうな陽斗もパーカーのフードをかぶって立っていた。

私はペットボトルのキャップを閉めながら、こくりと小さく頷く。


「うん。明日俺パフォーマンスあるからさ」

「うわ、そっか。頑張れよ」

「不運を祈っとくね。あ、祈られなくてもお前は基本不運か。あはははは」

「無視していいよ、千歳」

「うん」


朝から二人とも元気そうで何より。

そんなことを思いながら、再び目を伏せて自分のストレッチに戻ろうとする。


と、その時。

ガチャ、とドアが再び開いて、見慣れた人影が入ってきた。


──遥風だ。


黒いジャージを着て、シルバーのヘッドフォンで耳を塞いでいる。

無造作に下ろした前髪、その隙間から見える瞳が少し疲れてるみたいで、いつもよりどこか気怠げな雰囲気を纏っていた。