「……バカかよ」
吐き捨てるように呟いて、俺はそいつを乱暴に枕元へ投げた。
本当にバカだ。
こんなもので足りると思ってる千歳も。
こんなものじゃ足りないって分かってるのに、手放せないでいる俺も。
──本当は、千歳のために全部我慢するって決めたはずだった。
千歳はもう、色んなことに困ってる。
色んな感情に挟まれて、色んな奴に振り回されて、それでも自分でなんとかしようと頑張ってる。
そこに俺まで、困らせるようなことを押し付けたくなかった。
千歳に、自分が悪いみたいな顔をさせたくなかった。
──なのに。
ダメだって言い聞かせてなんとか気持ちを抑え込もうとするほど、頭の中は千歳で埋まっていくし。
ダンスの練習をしていても、気づけば千歳のことばっかり目で追っていて、全く集中なんてできない。
コモンルームで千歳を抱き留めたときの感触を、まだ覚えていた。
柔らかくて、軽くて、甘い匂いがして、胸の中にすっぽり収まるくらい小さくて──
心臓の音が、速かった。
緊張してるのは俺だけじゃない。そう気づいて、たまらなくなって、思わず強く抱き寄せてしまった。
……あれさえなければ、千歳とまだ普通に話せていたんだろうか。
