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「……九条の許嫁ぇ?!」
ブラジル・マドゥレイラ、深夜一時。
小さな宿舎の一室に、椎木篤彦の素っ頓狂な声が響いた。
「ほんまに?あの気難しいジジイに認めさせたん?!」
「だからそう言ってるじゃないですか……」
ツボに入ったみたいにけらけら笑い転げている篤彦を前に、私は膝を抱えたまま表情を引き攣らせる。
一体何がそんなに面白いのか。さっきまで散々チクチク言葉を浴びせてきたくせに急にこれだ。マジでついていけない。
しかも、なぜか当然のように九条総一郎の存在と性格まで把握済みだし……
彼の言うダンサーコネクションとやらは裏社会の重鎮事情まで抜かりなくカバーしているというのか。不気味すぎるって。
じとっと不審がる視線を向けるけれど、当の本人はどこ吹く風で、エマと翠雲会のパイプができたという事実にただただご満悦である。
「千歳ちゃん、偉業やな。さっすがプレイガール」
笑いすぎて目元に浮かんだ涙を拭いながら、死ぬほど失礼な称賛を投げつけてくる篤彦。
その言いぐさに普通にムッとしてしまった私は、布団の端を握ったままちょっと睨んだ。
「やめてください。私は男遊びしたくてここにいるわけじゃないので」
「え?でも遥風と京とは最後までしたんやろ」
ぎく、と肩が強張る。
その反応を前に、篤彦はちょっと目を細めると、軽くため息を吐いた。
「それはやばいと思うで?ほんまに」
「……で、すよね……」
実際、自分でもそう思う。何がどうしてこんな展開になってしまったのか、私自身もいまだに整理がついていないのだ。
そうして事実だけを並べられてみると、本当にただ男を食い荒らしにきたとんでもない悪女みたいじゃないか。
最初の方はむしろ嫌われようと頑張っていたはずなのに、一体いつから道を間違えたんだ……?
