ぞく、と背中に電流が走ったような感覚に、思わず息を詰めた──
そのときだった。
ぱ、と腕が解け、遥風が身体を離した。
……あ。
「悪い」
短く落とされる、掠れた声。
慌てて振り返ったけど、視線は合わなかった。
「……」
じくりと胸の奥が鈍く痛んで、表情に出そうになったけど。
ここで変に空気を湿らせるのも気まずいと思った私は、慌てて押し隠し、わざと明るい声音を保って言った。
「……いや!ありがと、助かった」
何もなかったみたいに、平気なふりをして笑ってみせるけど──
遥風は、まだどこか上の空だ。
視線は床の一点に落としたまま、「うん」と生返事だけが返ってくる。
長い睫毛に縁取られた、黒曜石みたいに綺麗な瞳。いつもは真っ直ぐにこちらを見てくるそれが、今はどこか揺らいでいるみたいで。
──辛そう。
やっぱり、まだ駄目なんだ、と、気づいてしまった。
普通に喋れるようになったからって、冗談を言い合えるようになったからって、私たちが積み重ねてきた色々なものを無かったことにできるわけじゃない。
遥風は私が思ってるよりもずっと、自分を必死に抑え込んで、頑張ってくれている。
いつも念頭に置いていたはずのそれが、どこか薄くなりかけていたことに気がついて、私は自分を殴りたい気分だった。
