さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



……嬉しいな。

やっぱり、メンバーの中で一番気を許せるのは、今も昔も遥風だ。


このままずっと、変に拗らせることなく、こういう関係でいられたらいいのに。


そんなことをぼんやり思いながら、食器棚の整理を終えた私は。


綺麗になった戸棚に満足して、後ろ向きのまま台から降りようとした──

の、だけど。


瞬間、スッ、と足裏が空を切る感覚がした。


──段差を捉え損ねたのだ。


「あ、」


気づいた時にはもう既に遅く、身体の軸は、ぐらり、と大きく傾きかけていて。


やっ、ばい。


落ちる──!!


鈍い痛みを覚悟して、ぎゅ、と目を瞑った──

そのとき。


ドサッ!!


背後から伸びてきた腕に、間一髪で抱き止められた。



「っ……!」



呼吸が、止まる。


──遥風だ。



ふわ、と鼻腔をくすぐる彼の落ち着いた匂い。

熱い体温。

息遣い。


一拍遅れて、背中越しに、どくどくと速いテンポの心臓の音が響いてきた。


……ちか、い。

時が止まったようになって、顔に熱が集まる。肩に力が入る。


今すぐ離れなきゃいけない。そう本能がけたたましく警報を鳴らすのに、強張った身体はビクともしなくって。

気づけばこっちの心臓の音も、釣られて早くなるばかり。



と、そんな私の反応に当てられたのか──

私をホールドしていた遥風の手が、身体をすり、と一瞬撫でて。



そのまま、ぎゅ、と抱きしめる腕の力が、あからさまに強くなった。


あ……これ。

やばい、かも……