「おかげさまで」
「どういう意味っすかね」
ちょっと怒ったような格好をする遥風を、まあまあと手で宥めながら、私はすぐさま話題転換した。
「暇ならさ、それ全部冷蔵庫に入れといて」
「別に暇じゃねーんだけど」
ちょっと拗ねたように文句を言いつつも、結局素直に冷蔵庫係を引き受けてくれる遥風。
そっち側は遥風に任せることにして、私はもうひとつ床に置いていたエコバッグに手をかけた。
こちらに入っているのは、食べ物ではなく、プラスチックのカップや皿たち。
この寮にはもともと食器が備え付けられていたけれど、どれも微妙に古いし、数もあまり揃っていなかったので、せっかくだから買い足そうとずっと思っていたのだ。
仕舞う場所は、キッチンの上の方に取り付けられた吊り戸棚。
身長の高い遥風なら難なく手が届くんだろうけど、私にとってはシークレットシューズを履いていてもいささか高すぎる。
そこで、近くに置いてあった小さな踏み台を引き寄せて、その上に登ることにした。
10cmほど高くなった目線。遥風たちはいつもこの視点なのか……
便利そうだな、なんて考えつつ、私は扉を開いて戸棚を整理し始める。
元ある食器を移動させ、空いたスペースに新しいものを重ねていく──そんなふうに手を動かしながら、私はふと考えた。
……そういえば、いつの間にか、遥風と普通に喋れるようになった気がする。
何を言えばいいか分からなくなって気まずくなるとか、気を抜いたらすぐ甘ったるい空気になるとか、そういう難しい時期があったのが嘘みたいに。
今は、二次審査で仲の良い友達同士だった頃と同じように、すごく自然に喋れてるよね。
