なぜって?
──隣の遥風を、絶対に煽りたくなかったから。
遥風が私のためにすごく頑張ってくれてるのは分かってる。
だからこそ、こちらが不用意な仕草で彼を邪魔するわけには絶対にいかない。
そう考えた結果、私は、今までよりさらに厳しいルールを自分に課すことにしたのだ。
まず一つ。練習するときは、必ず遥風のブレーキ役になってくれるメンバーを同席させる──即ち、絶対に二人きりにならないこと。
ちなみに今も、同じスタジオの少し離れた場所で、栄輔や陽斗が黙々と自主練に励んでくれている。
そしてもう一つ。髪を耳に掛けたり、上目遣いをしたり、距離を詰めたり、襟元をパタパタさせて肌を見せるような、男を意識させるような行動はしないこと。
こうして言葉にすると難しそうに聞こえるけれど、学校で霞に対して意図的に仕掛けてきたあざとい仕草を全部意識してやめればいいだけ。
そう考えたら、意外とすぐに慣れることはできた。
……けど、きっとこの二つだけでは不十分で。
一番大事なルールは最後の一つ。
決して、『嫌われた』とか『拒まれた』って彼に思わせないことだ。
彼はそういう方向に傷ついた瞬間、余計に拗らせて一人で抱え込んで、結果自爆してしまうような傾向がある。
だから、あくまで仲の良い友達としては積極的に話した方がいい──
そう決めていた私は、ぼんやりと風に当たりながら、遥風に声をかけた。
「そういえば、遥風ってもうフライヤーチャレンジやったの?」
なるべくカラッとした声を装って、そう尋ねると。
遥風は手元のスマホの電源をカチッと落として、こちらを向いた。
「やったよ。昨日」
「え、どうだった」
「エグいナンパされた」
「すご……やっぱブラジルの女の子って積極的なんだね」
流石はエマプロのビジュアル担当、言葉の通じない南米女子たちをも虜にするとは……と一人感心していると。
遥風は何故か数秒黙った後──
苦虫を噛み潰したような表情で、吐き捨てた。
「いや、野郎に」
