すると、そのときだった。
「千歳」
頭上から落ちてきた声。
ハッと顔を上げると、そこに立っていたのは──
遥風だった。
私に視線を合わせるように、その場にしゃがみ込んでくる遥風。
さら、と揺れる前髪の下、拗ねたような瞳が私を捉えた。
「……なんで俺に頼まないの?」
低い声。
ドキ、と心臓が跳ねる。
……なぜ、彼に頼まなかったか?
だって、もし教えてもらうことになって、二人きりで練習する時間が増えたら、それはそれで色々ヤバいんじゃないかと思ったから。
そういう理由で、遥風、京、栄輔あたりの、私に好意を持ってそうなメンツは最初から除外してたんだけど──
そっ、か。
遥風。
遥風ね……。
ぼんやりと、最近の彼の行動を思い出してみる。
彼は、私が他の男と話してても、前ほど怒らなくなった。加えて、私が消耗している時は、真っ先に心配してくれる。
何より、ブラジル合宿が始まってから──すごく律儀に、私との距離感を守ってくれていた。
それに、今の私は切羽詰まりすぎていて、手段を選んでいられる状況ではない。
……きっと大丈夫、だよね。
私は少し逡巡した後、迷いを振り切るみたいに軽く息を吐いて。
それから、すがるみたいに遥風を見上げた。
「……教えてくれる?」
