さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



……最初からずっと、出力をセーブしていたんだろうな、とは思っていた。

けれど、ここまでとなると逆に、今までの彼がナメすぎていてすごいなと思えてくる。


これと比べたら、今までの彼はきっと実力の半分も出していなかったはずだ。

ファイナル通過が決まっていたとはいえ、よくここまで大胆に手を抜き続けられたな。


しかし、そんな省エネ状態ですら、悠々とダンスリーダーの肩書きを持っていた彼。

つまり、本気を出した今──

彼に代われる人は、誰もいない。


これが正真正銘の、メインダンサーだ。


わずか8×8。時間にして、およそ三十秒ほど。

その短時間で、彼はスタジオの空気を完全に支配していた。


トラックは既にダンブレパートから落ちサビへ切り替わり、彼は振りを抜いて軽く下がったけれど。

スタジオ中はいまだに静まり返っていて、その場にいる誰もが呆気に取られたように硬直していた。


ただ、トラックだけが取り残されたみたいに鳴り続けている。


「……Hey(おい)」


沈黙を破ったのは、Mr.Dだった。


「Cut it(止めろ)」

「Y-yes, sir!(は、はい!)」


その声で我に返ったスタッフさんが、慌てて音源を止める。


ぷつり、と音が消えると。

今度こそ本当の静寂が、スタジオを支配した。


篤彦は若干息を切らしていたけれど、表情だけは涼しく保ったままで、さらりと髪をかき上げる。

一方のMr.Dは、しばらく険しい表情で、腕を組んだまま硬直していた。