さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


か、かっと刻んで重心を落としてから、左右へのダイナミックな重心移動。

イヤホンで聴いていた時より重く聞こえるベースに、相応しいアクセントを叩き込む。


髪が乱れる。


グッと一気にダウン、からのアップで取って、また下がる。

静寂だからこそ聞こえやすい余白で、ふっと溜め、乱れた前髪の隙間から見下ろし色気を乗せて。

口元に添えた手を、アクセントで振り落としてから、軸足そのままグッとターン、そのまま力強いクリスクロス。


そんな動きを通して、散らかった音粒のすべてが、彼の重心に強固な鎖で括り付けられているくらい──


鋭利に、鮮烈に。

彼によって、『鳴らされている』。


「……いや、キモすぎ」


隣で栄輔がつぶやいた。

……ダンサーにとっての『キモい』って、ときに最高の褒め言葉になる。


可動域がおかしい。

人間の身体じゃないみたい。

音の処理量がおかしい。


普通なら聞き流してしまうような細かい音まで拾って、それを一番気持ちいい形で身体に変換してくる。


つまり──

目の前の人間を、『天才』と認めてしまうのと同じようなものだった。