「Yo(おい)」
入り口を塞ぐように立つ、黒い影。
「You look pretty relaxed for a man who’s about to fight for his spot, Atsuhiko(今から自分の席を賭けて戦う男にしては、随分楽しそうだな──篤彦)」
天誅、否。
Mr.Dだ。
名前を呼ばれた篤彦が、顔を上げる。
さっきまで死ぬほど笑っていたくせに、一瞬にして表情を整え、ピンと背筋を伸ばした。
「I’m not relaxed. I’m nervous.(楽しくなんかありません。緊張しています)」
嘘つけ!!
あまりにも白々しい演技を横目に、心の中で舌打ちをする。
しかしまあ、今更そんな雑な猫被りが通用するはずもなく──
黒いキャップの下から、Mr.Dは鋭い視線で篤彦を見下ろしていたけれど、やがて鼻でハッと笑った。
「If you’re that relaxed, you must’ve brought something good.(そんなに余裕があるのなら、さぞ良いものを用意してきたんだろうな)」
……あれ。
なんだか嫌な予感が……
ちょっと顔を引き攣らせる私。翔も軽く目を細めた。
そして、案の定、彼の次の言葉は──
「You go first, Atsuhiko(お前が最初だ、篤彦)」
ぴしり。
スタジオの空気が、完全に凍りついた。
終わっ、た……
……いや、終わったのは私ではない。篤彦だ。篤彦なんだけど。
篤彦が終わるということはつまり、見ているだけで胃が痛くなる鬱タイムの開幕ということで。
確かにさっき天誅を望んだけど、この形はどう考えても違うよ、神様……
まだレッスンは始まってすらいないというのに、私はすでに一日分のHPを消耗し、一人死んだ目になっていたのだった。
