さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



私のTシャツの中に入り込んでいた京の手が、ぴたりと止まる。

しかし、京は微塵も慌てた様子はなかった。

それどころか、むしろ面白そうに唇を歪めると、するりと服の裾からタオルを引き抜く。

肌から離れていく布の感触に、私は思わず小さく息を吐き出した。


た、助かった……。


そんな心臓バックバクの私とは対照的に、京は何事もなかったかのように肩をすくめるだけ。


「あーあ。良いとこだったのにね」


わざわざ遥風を煽るように、そんなことを言ってきて。


「……は?」


その態度に、遥風の纏う空気が一瞬にして冷え込んだのが分かった。

威圧感に私は思わず肩を縮めたけれど、その殺人視線を受けた張本人はまるで気にしていない。


気怠げな笑みを浮かべると、私の足元にポンとタオルを落とした。


「じゃーね。おやすみ、千歳」


私にだけ、やたら甘い声でそう落とすと。

京は遥風の肩をわざと掠めるみたいにして、あっさりスタジオから出て行ってしまった。


遠ざかっていく足音。

京の匂いがまだ微かに残るスタジオの中で、私と遥風はお互いにしばらく微動だにせず固まっていたけれど──


「死ねよ」


遥風の悪態が、沈黙を破った。

ドアの向こう、京の消えた方向を睨んで、思いっきり舌打ちをする彼。


遥風、過去一で不機嫌……。


これ、私、絶対怒られるよね。

遥風にはスキンシップ禁止とか言っておいて、他の男に簡単に触らせてるんだもん。


そりゃブチギレコースだ、覚悟しよう……と、ガチガチに身構える私だったけれど。


遥風が私の方に向き直ったとき──

その声音は、意外にも優しかった。