さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



「…………」


退路を、塞がれたのだ。

彼の香水と制汗剤の混じった匂い、体温の熱さが、いっそう近くなる。


京の前髪が、窓から吹き込む夜風にさらりと揺れて。

じっ、とこちらの顔を見たまま、頑なに視線を逸らそうとしない。


逃がさないよ、と無言の圧力をかけるみたいにして、彼は私を壁との間に閉じ込めながら──

するり、とTシャツの裾を押し上げて、無防備な脇腹からタオルを入れてきた。


「っ──」


心臓が、口から飛び出しそうになる。


さっきより、ずっとくすぐったいところ。

それに、ただくすぐったい、だけじゃない。


大きめのTシャツの内側、京の手がタオル越しに触れた。


「っ、そこ、やめっ……」


たまらず身体をぴくりと反応させて身を縮めると、ふ、と小さな笑いが落ちた。

その吐息がダイレクトに耳元にかかって、身体がぎゅっと強張る。


確かに、『直接』私のことを触っていない。いないけれど──

なんか、これは普通に触るよりも、色々危ない気がっ……!!


と、完全なる窮地に追い詰められていた──そのとき。


ガタッ!!


スタジオ入り口のドアが、乱暴な音を立てて開いた。


「──おい」


低い声が、夜のスタジオに響く。


「何してんの?」


反射的に視線を向けると、そこに立っていたのは──遥風だった。