「そういえば、飛行機でも俺の隣でずっとカメラ回してたよね」
「うん、あれはブラジルVlog♪」
京の言葉に、陽斗は歌うように答えた。
ブラジルへのあの最悪な旅路もコンテンツのネタにするとは……とことん抜け目ない。
きっと彼の手にかかれば、この生き地獄も魅力的なキラキラVlogに編集されてしまうのだろう。
〜【ブラジル旅行Vlog】灼熱ダンス合宿の裏側に密着💕〜
みたいな、やたらとっつきやすいタイトルで。
きっとそのうち私も出演を強要されるんだろうな……。
「じゃ、僕ちょっと部屋戻ってサクッと動画仕上げてくるから。雪くんも手伝って」
「は?なんで俺……ちょ、おい引っ張るなっ!!」
陽斗は当然のように弟の腕を引っ張ると、ずるずるとスタジオ出口の方に引っ張っていく。
雪斗は抵抗していたけれど、結局は兄の言うことに面と向かって逆らえないみたいで。
「サムネどっちがいいか見てもらうから」
「どうせあれだろ?一ミリしか変わんない間違い探しみたいな二択見せられるだけだろ?」
「お前いつもそう言うけど全然違うから!!節穴!!」
「よしじゃあ分かった、栄輔に見て判断してもらうか」
「いいよ何円賭ける?僕5000円!!!!」
と、そんな言い合いをしながら、二人の足音がドアの外を遠ざかっていく。
やがて、声も足音も完全に聞こえなくなり──
「…………」
急に、スタジオに沈黙が落ちた。
回り続ける扇風機の低い音。
開け放たれた窓から入り込む、夜風や車の走行音。
さっきまで陽斗たちの声で紛れていたそれが、やけに大きく、近く聞こえる。
