と、そのとき。
沈黙を破るかのように、ポケットに入れたスマホがヴーッと震えた。
……誰だろう?
取り出してみると、そこに表示されていた名前は『兎内雪斗』で。
多分業務連絡だな、とすぐに察した私は、篤彦から視線を逸らし応答ボタンをタップした。
「もしもし?」
『あ、千歳今どこにいる?スタッフが探してたぞ。次インタビューお前撮るって』
「えっ、あ、分かった。すぐ戻る」
短く返事をして通話を切ると。
私たちの会話を聞いていたのだろう篤彦は、ニヤニヤと悪魔のような笑みを浮かべて話しかけてきた。
「じゃあ、千歳ちゃん。インタビューで『俺に教えてくれたせいで篤彦くんが〜』みたいな演技しよか」
「しません」
「『篤彦くんはスタジオに何時間も篭って部屋に帰ってこないです。僕がへっぽこオタンコナスなせいで……』」
「言いません」
「泣けたら百点やな」
誰がこんなやつのために涙を流すか。
私がそんな思いを込めて睨みつけても、篤彦は全く意に介さず。
言いたいことだけ言って満足したのか、涼しい顔でスマホをポケットにしまい、立ち上がった。
ふわ、と大人びた香水の残り香が風に乗って漂う。
「まぁなんでもええけど。行ってらっしゃい」
「……篤彦くんは帰らないんですか?」
「うん。朝帰り」
「はぁ?」
当然のように言われ、思わず素っ頓狂な声を上げた。
朝帰りって……どういうこと?女?
いや、峰間京じゃあるまいし……それ以前にここブラジルだよね?
戸惑っているうちに、篤彦はさっさと踵を返して歩き出してしまう。
