さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



「千歳」


頭上から、静かに声が落ちてくる。


ビクッとして顔を上げると──

そこには、椎木篤彦が立っていた。


初めて話した時のような、ニコニコとした人の良さそうな笑みを浮かべたまま、こちらを見下ろしてくる。


「どこが分からん?良かったら一緒にやろうか」


柔らかく優しい、親切な声音。

その態度の変わりように少し怪訝に思ったけれど──私はすぐに理解した。

スタジオの隅に設置されたカメラのレンズが、明らかにこちらにフォーカスしている。


……なるほど。

ここで困っているルームメイトに手を差し伸べれば、自分の株が上がるからってことか。


その見え透いた算段に、ちょっと気分が悪くなったけれど──

だからと言って、このチャンスを突っぱねるわけにもいかなかった。


今の私には、プライドをかなぐり捨ててでもこの人に頼る以外の道はない。


「……」


私は悔しさを押し込めながら、彼と目を合わせた。


「お願いします……」


掠れた声でそう絞り出すと、篤彦は爽やかに微笑んで頷く。

そのまま踵を返した彼を追うように、私もよろよろと立ち上がって。

動くのを拒否する筋肉を叱りつけるみたいに、無理やり鏡の前へと向かうのだった。