そして一瞬行き場を無くしたその手は、すぐさま私のペットボトルを掴んだ。
「千歳くん、とりあえずお水飲みましょっか。一気に飲まなくていいから、ゆっくり」
頼んでもないのにペットボトルのキャップを開けて手渡してくれるという、甲斐甲斐しい世話焼きっぷり。
その気遣いに、荒みきった心がじわりと浄化される気がして、思わず小さく笑ってしまう。
「……ありがとう。扇風機はいいよ、自分に当てな」
「いや、千歳くんにぶっ倒れられたら困るんで……てか、こんなちっちゃいのじゃ埒あかないっすよね。今度俺、クソデカい扇風機どっかで調達してきます」
「え?」
「多分翔あたりにお願いしたらサラッと十個くらい買ってくれるはずなんで」
「いや……」
そんな要求を彼に通せるのはあなただけだよ、と内心でツッコむ。
というかそれ以前に、扇風機十個なんて置いたら全員強風オールバックになって絵面がとんでも無いことになるからやめたほうがいい。
と思ったけれど、栄輔の気遣いにそんな冷静な見解をぶつけるのも気が引けたので、私はただ笑って「ありがとう」と返した。
──しかし。
「いや台風起こす気か」
私の反対隣から、正論ツッコミが入った。兎内雪斗である。
私たちと同じく追いかけっこ被害者である彼は、おでこに冷えピタを当て、首にクールリングを巻き、ハンディファンを最大風量で回しながらスポーツドリンクを抱えていた。
なんとも快適そうな完全防備……。
と、私が羨ましく思ってソワソワしているのに気付いたのか、雪斗はふっとこちらに視線を向けた。
