……椎木篤彦。
よくよく考えたら、一番ダメなのは絶対に彼の方だった。
この人は、私を蹴落とすためなら、盗撮、盗聴、脅迫、情報操作、どんな犯罪でもやってのける悪魔なんだから。
もうこの際、やられる前にやる戦法で、さっさと通報すべき?
……ブラジルの警察に?
いや、治外法権だから日本の警察かな……?
と、衝撃のあまり脳内で思考を迷走させていると。
不意に、頭上から音もなく気配が近づいてきた。
「千歳」
軽い声が降ってきて、ぎくりと固まる。
……出たな、犯罪者。
ぎこちなく顔を上げると、そこに立っていたのは案の定、椎木篤彦だった。
カメラ前だからか、ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべて、ソファに腰掛ける私の前にしゃがみ込む。
「この世の終わりみたいな顔やな。そんな嫌?」
顔を覗き込むような上目遣い。少し長めの前髪がさらりと揺れ、甘い印象の目元に影を落としていた。
笑っている。
けど、その瞳の奥は、全然笑っていない。
「……この世の終わりの方がマシです」
「は?どこがやねん」
全てにおいて。
そう答えたかったけれど、スタッフさんに囲まれているこの状況であまり毒づくのも憚られたので、口をつぐむ。
これ以上彼と話したくない。そう思った私は、すっくと立ち上がって彼から離れようとした。
