これまでは実家に帰ったり、旅行に行ったりして寮を空けていた参加者も多かったぶん、今日は朝から空気が少し賑やか。
それが懐かしくて少し嬉しくもなったけれど、同時に、これから運命を分けるファイナルが始まるんだという実感も湧いてくる。
……風当たりの強いこの状況の中で、果たして私、上手くやれるのかな。
少し心配しながら、いつも通り収録スタジオに足を踏み入れた──
そのとき。
「千歳」
すぐに聞き慣れた声が耳に飛び込んできて、ハッと顔を上げる。
視線の先、声の主は遥風だった。
緩めの黒ジャージにカーゴデニム、腕や首元にはシルバー系のアクセサリ。
さっきまで耳に嵌めていたのであろう有線イヤホンをポケットに雑に突っ込みながら、こちらに駆け寄ってくる。
前髪は軽く分けられていて、以前よりもどこか研ぎ澄まされたような、涼やかな雰囲気だ。
……心なしか、また一段とビジュアルに磨きがかかった気が……しばらく会ってなかったからそう思うだけかな?
一ヶ月越しのキラキラオーラの衝撃に、少し目を細めてしまう。
「久しぶり」
「……久しぶり、かな」
実のところ、あまりそんな感じもしない。
というのも、休暇期間中、実家に戻っていた遥風からは毎日のようにどうでもいいLINEが届いていたからだ。
なんか、くだらなすぎてよく覚えてないけど、確か変な猫とか、美味しかったものの報告とか、道端の虫の報告とか……。
私虫嫌いだから、最後のやつは普通にやめてほしかったけど、彼からの連絡は荒んだ学園生活の中でちょっとした癒しみたいなものだった。
