「可愛い」
ぞく、と背筋が甘く戦慄するような、掠れた声。
いつもの飄々とした彼からは想像がつかないほどの熱量に、私は思わず息を止めた。
逃げなくちゃいけない。
頭では分かってるのに、本能的な恐怖とそれ以上の色気に支配され、金縛りにあったように動けない。
やばい、これ、喰われる──
と、完全な窮地に陥っていた、そのとき。
──ゴンゴンゴン!!
突如鳴り響いた、けたたましいノック音。
ベッドの上で、私たちは一瞬固まった。
何事?
戸惑う私の耳に、ドア越しから聞き慣れた声が飛んでくる。
「開けてください!犯罪者!犯罪者確保ー!!」
「ほんまに静かにしろどつくぞコラ」
冨上栄輔、そして椎木篤彦の声。
それまでに漂っていた甘ったるい空気は一瞬にして払拭され、峰間京が顔を上げる。
ノーセットの前髪から覗くその瞳は、せっかくの獲物を邪魔された不快感で、今までに見たことがないほど冷ややかに据わっていた。
栄輔だけだったら確実に無視を決め込んだだろうが、椎木篤彦が絡んでいるとなると、さすがに何か嫌な予感を覚えたのだろう。
「ちょっと待ってて」
ぽん、と私の頭に軽く手を置くと、京は寝起きそのままで騒がしい入り口に向かう。
ガチャリ、と乱暴にドアが開く音。
「何?」
不機嫌を隠そうともしない声音。
そんな彼の背後から、私も恐る恐る向こう側を覗き込んでみると。
そこには、こんな早朝から全力で取っ組み合いを演じている椎木篤彦と冨上栄輔の姿が見えた。
そして、問題の椎木篤彦の手には──
盗聴器。
……
…………
「はぁ……??」
一難去ってまた一難。
またもや面倒くさそうな展開を前に、私はドン引きで眉を顰めてしまった。
