さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



十人、って。

たった一人の男子高校生相手に、いかつい大人が十人がかり?

それは……慈悲、以前にプライドとかないのかな?


あまりに違う世界の話にあんぐりと口を開ける私をよそに、霞はぽつりと呟く。


「……いつもはこんなんじゃない。体調不良で、ちょっと苦戦しただけ」


ばつが悪そうに視線を逸らして、口を尖らせる霞。

好きな子の前で必死にカッコつける小学生男子みたいだけど、その内容がえげつなさすぎる。

その条件下でボコられても別に全然かっこ悪くないから!


「よく逃げて来られましたね」

「逃げてねぇよ。チャカ抜いてギリ」

「え、それって……」


思わず反射的にノンデリなことを言いかけて、ハッと口をつぐむ。


殺したんですか、なんて。


一歩間違えたら彼を責める響きになるそんな言葉を、脳死で投げかけてはいけない。


彼が生きているのは、人の命があまりに軽い世界で。

そこで生きることがどれだけ嫌で、心を削ることなのか、私には想像もつかない。


私とは違う場所で、私には決して分からない苦しみを潜り抜けてきた人。

私の平和な世界の物差しで彼を判断しちゃダメだ。


「……」

「……」


お互い何も言わず、再び落ちる気まずい沈黙。

霞もきっと、私が言わんとしたことをなんとなく察しているんだろうな、なんて思って、また自己嫌悪に陥る。


結局、そのひりついた空気感に耐えきれなくなって、私は思考を中断し立ち上がった。