「お迎えに上がりました、霞様。そして……千歳様」
ぞくりとするほどに、礼儀正しい声。
眼鏡の奥、不自然なほど静かな瞳に捉えられ、威圧感に何も言えなくなる。
「冷たい雨です。これ以上お身体を冷やされませぬよう、どうぞこちらへ」
執事さんがそう告げるのと同時に、路地の入り口に停まった高級車のドアが静かに開かれた。
その不気味なまでの手際の良さに、ちょっと嫌な予感を覚えつつ。
それでも、ここで何もなかったことにして逃げ切れる雰囲気でもなさそうだったから──
「……はい」
私は、辛うじてそれだけ返すと。
霞に肩を貸したまま立ち上がり、促されるままに開かれた車へと足を向けるしかなかった。
