脳裏にフラッシュバックする、あの無駄に豪勢な極道ハウスの廊下。
『坊っちゃまにご学友が!』と思いっきりボロ泣きして、私が練り切りを食べたらお盆をガタガタ震わせて喜んでいた──
あの執事さんだ。
やっっっっっっ、ばい……!!!
心臓が、今日一の早さで警鐘を鳴らし始めた。
今回ばかりはさすがに洒落にならない。
血だらけボコボコ状態のお坊ちゃま相手に、あろうことかめちゃくちゃキスされているというこの世の終わりみたいな濃厚BL現場を、よりにもよってあの純朴そうなお爺さん相手にがっつり見られてしまった。
「あ、あの、これはっ……!!」
なんとか霞の唇から解放され、必死に言い訳を絞り出そうとするも、パニックのあまり言葉が続かない。
けれど執事さんは、そんな私たちを前にしても、何故かあまり動じた様子はなく。
それどころか、丸メガネの奥の瞳をすっと細めて、ニコニコとこちらを見ているだけだった。
……え?
予想外すぎる反応に、逆に不安になる。な、なんだ……?
怒りを通り越して、もはや何も感じなくなってるとか?
焦って死にそうになる私をよそに、執事さんは恭しく傘を傾けると、ニコッと穏やかな微笑を向けてきた。
