さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


間違いない。

乱れた前髪の隙間、覗いた綺麗な横顔のラインは、紛れもなく彼のもの。


けれど、その様子はいつもと全く違う。

制服は汚れ、髪もぐしゃぐしゃ、唇の端に血が滲んでいて……どこからどう見ても只事じゃない。


「先輩、大丈夫ですか……!!」


しゃがみ込んで声をかけるけど、すぐに返答はなかった。髪が濡れて頬に張り付いていて、呼吸もかなり荒い。


……ま、ずい。思ったよりずっと深刻にやられてる。


「分かりますか?俺、千歳」


彼の頬に手を添えてそう聞くと、ようやく彼はぴくりと反応した。

顔を上げ、ぼんやりと焦点の定まらない視線をこちらに向ける。


「……ち、とせ」


いつもの傲岸不遜な態度はどこへやら、あまりにも弱く掠れた声に、背筋がぞっと冷えた。


……あんなに強かったのに、ここまで酷い有様になるなんて。


一瞬、京か?とも思ったけど、彼がこんなことをするはずがない。

京は、私に嫌われるようなバカな真似は絶対にしないだろうから。


だとしたら……前遭遇した連中か、はたまた違う敵対派閥か。

なんにせよ、多勢に無勢で、囲まれてやられたんだろう。


「……じっとして」


自分でも驚くような、硬い声が出た。


すぐに霞の身体に目を走らせる。

だいぶ殴られてるっぽいけど、殴打だけで霞がここまで弱るはずない。

何か、致命的な傷があるはず──
そう思って、脚まで視線を下げたそのとき。


雨に濡れたスラックスの裾に、不自然な濃い染みが見えた。

嫌な予感がして手を触れると──
指先に、雨とは違うぬるい感触。


──血だ。