さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



「痛めつけるだけのつもりだったが、もう少し効く手に変えてやるか」

「ああ、せっかく拾った駒だ。上手く使おうぜ」


言いながら、男の手がポケットに入った。そこから引き出した布からは──

ツン、と鼻を刺す薬品臭。


──あ。

や、ばい。

知ってる、これ。


式町睦に攫われたときと、同じ……!!


気づいた瞬間、背中に冷たい汗が滲んだ。


必死に顔を逸らそうとするけど、顎を掴まれて叶わない。

近づいてくる刺激臭。


「っ……」


もう観念して、ぎゅっと固く目を瞑った──

そのときだった。



──ドガッ!!



「がっ……?!」


羽交い締めにしていた腕の力が、いきなり消える。


なっ、何……?!


拘束が解けた勢いでよろめきながらも、慌てて振り返ると。

視界に飛び込んできたのは、壁に叩きつけられた男の巨体と、その前に立つ見慣れた横顔。


ポケットに手を突っ込み、乱れ前髪の奥、ひどく冷たい瞳で男を見下ろすのは──


九条霞。


目の前の男たちは私と同様、すぐには何が起こったのか分からなかったみたいで。


数秒間、目を見開いて固まっていたけれど──

やがて顔を見合わせて、ニヤリ、と口元を歪めた。