……バグってる。
相変わらず、呆れるくらいバグってる。
けど──
この人の場合は、そうならざるを得なかったんだろうな。
小さい頃から、乾いた銃声が日常で。
金と血に塗れた権力闘争の駒にされ、倫理や道徳なんか到底通用しない世界で生きてきた。
常に誰かから狙われ続け、いつ死んでしまうかも分からない──
そんな地獄みたいな人生の中で、自分を保つ唯一の術。
それが、瞬間的な快楽ですべてを塗りつぶすことだったんだろう。
そう考えると、この人の刹那主義って、生きるためにはすごく合理的な防衛だ。
顔を上げたら表情が崩れてしまいそうで、俯いたまま黙り込むしかできない私。
その鼻先に、ふわりと香水の匂いが近づく。
甘く、大人びて、どこか危うい匂い。
「……だからさ、千歳」
頬に、そっと手を添えられて。
「いつもみたいに来いよ」
視線が、交錯する。
「騙されてやるからさ」
西日を反射して、琥珀色に煌めく瞳。
脳の芯がじんわり痺れるような、甘さにかき濡れた声色。
このひとは──
私に弄ばれることを、『快楽』として受け入れ始めてる。
だからもう、私があと一歩踏み出せば、自分から落ちてきてくれるはず。
簡単なことだ。
いつもみたいに、ちょっと煽ればいいだけ、なのに。
私は、なかなかその一歩を踏み出せずにいた。
