桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

3. 病院へ向かう車中
 
 彼らは2台のタクシーに分乗し、病院へ向かった。
 車の中では、ほとんど会話がなかった。
 助手席に座る泰亮が、気まずそうに窓の外を見ている。
 将貴もまた、スマートフォンを見つめながら、過去の記憶に蓋をしていた。
 しかし、不意に基翔が口を開いた。
「……先生、どれくらい悪いんだろう。」
 それは、誰もが考えていたことだった。
「手紙には『あまり時間がない』って書いてあったけど……。」
 美耶が、不安そうに呟く。
「なあ、みんなさ。」
 泰亮が、意を決したように口を開く。
「もし、先生が本当に……もう長くないってなったら、俺たちはどうする?」
 その言葉に、車内の空気がさらに重くなる。
「どうするって……見送るしかないだろ。」
 将貴は冷静に答えた。
「そうじゃなくて。……ちゃんと、話せるのか?」
 その問いかけに、誰も答えられなかった。