桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

1. それぞれの歩み
 季節は、再び巡っていた。
 桜ノ丘で再会してから、さらに数か月が経ち、風の匂いがほんのり変わり始めたころ。
 東京の喧騒の中、それぞれが違う場所で、違う時間を生きていた。

智香:書き続けるということ
   小さなカフェの窓際の席。
 コーヒーの湯気がゆっくりと立ち昇る。
 智香は、パソコンのキーボードに指を置きながら、何度も書いたり消したりを繰り返していた。
「……もうすぐ締め切りか。」
 彼女は小さく息を吐いた。
 エッセイサイトでの連載がきっかけで、出版社から本の執筆依頼を受けた。
 喜びと同時に、責任の重さを感じる日々。
 でも——
(私は、これがやりたかったんだ。)
 10年前、言葉にできなかったことが、今は文章として誰かに届いている。
「私の言葉が、誰かの支えになれたら。」
 そう思いながら、彼女は再び指を動かした。

将貴:経営者としての道
   ビルの一室。
 パソコンの画面には、クライアント企業の組織改革プランが映し出されていた。
「なるほど、ここを改善すれば、チーム全体の動きが変わるはずだ。」
 将貴は、ペンを走らせながら考え込む。
 独立して、コンサルタントとしての道を歩み始めてから、すでに半年が過ぎていた。
 最初は不安もあった。
 だが、少しずつ、確実に仕事が増えている。
「選んでよかったのかもしれないな。」
 ふと、デスクの端に置かれた写真立てを見た。
 ——桜ノ丘で撮った、7人の写真。
 彼は微笑んだ。
(俺は、前に進めてるよ、達也。)

泰亮:支えるリーダーへ
   オフィスの会議室。
 泰亮は、部下たちの顔を順番に見渡した。
「お前ら、それぞれの強みを活かせる形で進めていこう。苦手なことは補い合えばいい。」
 彼が率いるチームは、以前よりもはるかに活気づいていた。
 かつては、リーダーとは"指示を出すもの"だと思っていた。
 だが今は——
「リーダーの役割は、人を育てること。」
 それが、彼の信念になっていた。

基翔:人の心を支える仕事
   カウンセリングルームの静かな空間。
 目の前のクライアントは、ゆっくりと話し始めた。
「最近、仕事のストレスが増えて……。」
 基翔は、相手の目をしっかりと見つめ、ゆっくりと頷いた。
「大変でしたね。でも、まずはその気持ちを整理していきましょう。」
 かつての自分は、"共感するだけ"だった。
 だが、今は違う。
 ただ聞くだけでなく、相手の人生に寄り添いながら、一緒に考える。
(10年前の俺が、今の俺を見たら、どう思うだろう。)
 少し、誇れる自分になれている気がした。

純鈴:チームで未来を作る
   会議室のスクリーンには、大きなプロジェクトのプレゼン資料が映し出されていた。
「この計画が成功すれば、今までにない規模のコラボレーションが実現できます。」
 純鈴は、自信を持ってプレゼンを続けた。
 人と協力して、何かを作り上げること。
 それが、彼女にとっての生きがいだった。

美耶:キャリアを導く仕事
  「転職を考えてるんですが、何が自分に向いているのかわからなくて……。」
「じゃあ、一緒に考えましょう。」
 美耶は、クライアントの目を見つめ、優しく微笑んだ。
「あなたが本当に大切にしたいことって、何ですか?」
 それは、かつての自分に投げかけたかった言葉でもあった。

太一朗:夢のあるイベントを
   舞台の上、目を輝かせる子どもたちがいた。
「夢って、"見つける"ものじゃなくて、"育てる"ものなんだ。」
 太一朗は、マイクを握りながら話した。
「だから、諦めないでほしい。お前たちの未来は、無限に広がってるんだから。」
 子どもたちの拍手と歓声が、彼の背中を押してくれるようだった。

2. 1年後の約束
   そんなある日——
 智香のスマホが震えた。
智香:「みんな、そろそろまた集まらない?」
 送信ボタンを押してすぐに、次々と返信が届く。
将貴:「いいな。次はどこにする?」
泰亮:「また桜ノ丘でもいいし、他の場所でもいいな。」
基翔:「今度は、新しい場所に行くのもいいかもな。」
純鈴:「せっかくだから、何か特別なことをしたいね!」
美耶:「みんなが集まれる場所ならどこでもいいよ。」
太一朗:「じゃあ、俺が場所探しておく!」
「また1年後、みんなで集まろう。」
 それは、10年前の自分たちには想像できなかった未来だった。

3. 未来へ続く道
   再び集まる日を楽しみにしながら、彼らはそれぞれの道を進み続けた。
 ——もう、後悔に縛られることはない。
 それぞれが、自分の未来を選び、成長し続ける仲間として。
 そして、次に会う日には——
 また新しい未来を語り合うのだろう。
(第29章・終)