桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

1. 旅の終わり、そして始まり
   桜ノ丘での誓いを胸に、彼らはそれぞれの現実へと戻る準備を始めていた。
 駅へ向かうタクシーの中、誰もが静かだった。
 ——この旅は、終わったのか?
 将貴は、そんな思いを抱えながら、車窓の外に流れる田園風景を眺めていた。
「……東京に戻ったら、また普通の生活か。」
 泰亮が、ぼんやりと呟く。
「普通、か。」
 基翔が、その言葉を反芻するように繰り返した。
「でも、もう前と同じじゃないよな。」
「そうだな。」
 将貴は、静かに頷いた。
「俺たちは、過去に囚われなくなった。でも、だからこそ……これからのことを考えなきゃいけない。」
「これからのこと?」
 純鈴が、少し不思議そうに尋ねる。
 将貴は、ゆっくりと答えた。
「俺は、人生を変えたいと思ってる。」

2. 変わるべき理由
  「人生を変える?」
 泰亮が、眉をひそめる。
「どういうことだ?」
「今まで俺は、仕事ばかりに没頭して、過去を見ないふりをしてきた。でも、それじゃダメなんだって気づいたんだ。」
 将貴は、まっすぐに前を向いたまま話し続ける。
「俺は……"本当にやりたいこと"を見つけたい。」
 その言葉に、全員が息をのんだ。
「将貴……仕事を辞めるつもりなの?」
 智香が、少し驚いたように尋ねる。
「まだ決めたわけじゃない。」
 将貴は苦笑する。
「でも、今のままの人生を続けていたら、また同じ後悔をする気がするんだ。」
 彼は、自分の胸に手を当てる。
「俺は、過去に囚われてたんじゃなくて、"何も選ばない"ことで逃げていたんだ。」
「……。」
「だから、俺は自分で"選ぶ"。これから、どう生きるのかを。」

3. 仕事か、新しい道か
  「でも、それって簡単なことじゃないよね。」
 純鈴が、慎重に言う。
「仕事を辞めるかもしれないって、それって人生の大きな決断じゃない?」
「もちろん、簡単じゃない。」
 将貴は、静かに頷いた。
「でも、俺は、"本当に自分が何をしたいのか"を考えなきゃいけない。……そのためには、一度立ち止まることも必要なんだと思う。」
「立ち止まることが、前に進むこと?」
 美耶が、小さく呟いた。
「そうだ。」
 将貴は、確信を持って答えた。
「俺は今まで、立ち止まるのが怖かった。……だから、走り続けてきた。でも、本当に必要なのは、一度ちゃんと自分の気持ちと向き合うことだったんだ。」
「……。」
「だから、俺はそれをする。」
 将貴は、決意を固めていた。

4. 智香の想い
   智香は、将貴の言葉をじっと聞いていた。
 そして、静かに口を開く。
「……私も、同じことを考えてた。」
「え?」
「私も、"自分の人生をちゃんと選びたい"って思ってる。」
 彼女は、小さく笑った。
「私は、今の仕事が好き。でも、それだけじゃなくて……"私自身の言葉"を届けられるようになりたい。」
「……。」
「だから、私も"書くこと"を始めようと思う。」
 智香の言葉に、将貴は目を見開いた。
「書く?」
「うん。編集者としてじゃなくて、一人の人間として。」
 彼女の瞳には、迷いのない決意が宿っていた。
「私も、私の人生を選ぶよ。」
 将貴は、彼女の言葉をしっかりと受け止めた。
「……そうか。」

5. それぞれの道へ
   新幹線がホームに滑り込む。
 東京に戻る時間が来た。
「じゃあ、ここからはそれぞれの道だな。」
 泰亮が、肩をすくめる。
「……でも、またすぐに集まるんだろ?」
「当たり前だろ。」
 将貴が、微笑んだ。
「俺たちは、もうバラバラにはならないって約束したんだから。」
「うん。」
 智香が、静かに頷く。
「また、必ず会おうね。」
「当然だよ。」
 基翔が微笑む。
「次に会う時には、もっと自分の道を進んでいる自分でいたいな。」
「……俺も。」
 将貴は、荷物を持ち直した。
「じゃあ、またな。」
 彼らは、それぞれの人生へと歩き出した。
 ——それぞれの未来へ向かうために。
(第15章・終)