桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

第13章：泰亮の謝罪

1. 夕暮れの桜ノ丘
　 　桜ノ丘の空が、ゆっくりとオレンジ色に染まっていく。
　丘の上では、風に舞う桜の葉が落ち、静かな時間が流れていた。
　誰もがそれぞれの思いを抱えながら、しばらく景色を眺めていた。
　そして、その沈黙を破るように、泰亮が口を開いた。
「……なあ。」
　その声は、どこか不器用だった。
　彼は、ゆっくりと視線を上げ、将貴の方を向いた。
「俺、お前に謝らなきゃいけないことがある。」

2. 10年間の誤解
　 　将貴は、静かに泰亮を見つめた。
「……謝る？」
「ああ。」
　泰亮は、ギュッと拳を握りしめる。
「10年前の事故のあと、俺はお前を責め続けた。……お前のせいで、達也があんなことになったんだって。」
「……。」
「でも、本当は……」
　彼の声が震える。
「俺が、お前を"責めたかった"だけだったんだ。」
　その言葉に、将貴が息をのむ。
「俺は、達也を助けられなかった。……何もできなかった。」
　泰亮の目が、わずかに潤んでいた。
「だから、その悔しさを、お前にぶつけることでしか整理できなかった。」
「……。」
「お前が悪いわけじゃなかったのに……俺は、ずっとお前のせいにしてた。」
　彼の拳が震える。
「本当は、俺自身が、自分を許せなかっただけなんだ……。」

3. 将貴の答え
　 　泰亮の告白に、将貴はしばらく沈黙していた。
　そして、ゆっくりと口を開いた。
「……俺も、お前に謝らなきゃいけないことがある。」
　泰亮が驚いたように顔を上げる。
「俺は、"自分が悪い"って思い込むことで、全部を終わらせようとしてたんだ。」
「……。」
「お前に責められても、何も言わなかったのは、その方が楽だったからだ。」
　彼は、ゆっくりと拳を握りしめた。
「でも、それは違った。」
「……。」
「俺たちは、ちゃんと話すべきだった。」
「……そうだな。」
　泰亮が、苦笑しながら頷いた。
「でも、もう遅いよな。」
「遅くなんかない。」
　将貴は、まっすぐに彼を見つめた。
「俺たちは、こうしてまた話してる。……それが答えだろ？」
「……。」
「俺は、お前を恨んでなんかいないよ。」
　その言葉に、泰亮の目が見開かれる。
「……本当に？」
「本当に。」
　将貴は、小さく微笑んだ。
「お前と、またこうして話せてよかった。」

4. 10年ぶりの友情
　 「……マジかよ。」
　泰亮は、苦笑しながら頭をかいた。
「お前、そういうとこ、昔から変わんねえな。」
「お前こそな。」
　二人は、お互いに顔を見合わせる。
　そして、泰亮は、少しだけ照れ臭そうに言った。
「……悪かったな、今まで。」
「もういいよ。」
「……ありがとな。」
「礼を言うのは、お前だけじゃない。」
　将貴は、少しだけ笑った。
「俺も、お前に言わなきゃいけないことがあった。……それを言えてよかった。」
　泰亮は、小さく息をつくと、真っ直ぐに将貴を見た。
「じゃあさ、また友達に戻れるか？」
　その問いに、将貴は少しだけ考え——ゆっくりと手を差し出した。
「……当たり前だろ。」
　泰亮は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑い、力強くその手を握った。
　——10年ぶりの、和解の握手だった。

5. それぞれの心の整理
　 　二人の様子を見て、他のメンバーも微笑む。
「なんか……これで本当に、みんな昔に戻れそうな気がするね。」
　智香が、小さく微笑んだ。
「……そうだな。」
　基翔が頷く。
「俺たちは、まだ時間を取り戻せる。」
「うん。」
　美耶が、そっと桜の木を見上げる。
「でも、取り戻すんじゃなくて……"新しい関係を作る"って感じかな。」
「それも、悪くないな。」
　将貴が微笑む。
「過去をなかったことにするんじゃなくて、"過去を受け入れたうえで、前に進む"。」
「……うん。」
　智香が、ゆっくりと頷く。
「それが、私たちにできることなんだと思う。」
　彼らは、ようやく10年間のわだかまりを解くことができた。
　——そして、新しい未来へ進む準備が整ったのだった。
（第13章・終）