桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

1. 10年ぶりの再会
 
 新幹線のホームに降り立つと、地方都市特有の静けさが広がっていた。
 東京とは違う、穏やかでゆったりとした時間が流れている。
 将貴はスーツケースの取っ手を握りしめ、深く息を吸い込んだ。
 こんな場所に、もう二度と来ることはないと思っていた。
 そして、ホームの向こう側。
 ——智香がいた。
 彼女は、変わっていた。
 髪が少し短くなり、落ち着いた服装をしていたが、10年前と同じ優しげな雰囲気を纏っている。
 目が合った瞬間、どちらともなく息をのむ。
 10年間、何も話さなかった。
 何もなかったように生きてきた。
 だが、ここに来たことで、すべてが嘘だったと思い知らされる。
 ——10年経っても、あの記憶は消えていない。
 智香の唇が、かすかに動く。
 何かを言おうとしていた。
 だが、将貴はそれを待たずに視線を逸らし、歩き出した。
「……変わってないな。」
 その言葉が、彼の耳に届いたかはわからない。