桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

4. 泰亮の怒りと混乱
   泰亮は、ホテルのロビーで一人、カフェのカウンターに座っていた。
 手元のグラスには、氷が溶けかけたウィスキーが残っている。
「クソ……。」
 彼は苛立ちを隠せなかった。
 10年間、誰かを責めることで自分を保ってきた。
 将貴を責め、誰かに怒りを向けることで、自分が間違っていないと思い込んできた。
 ——でも、違った。
 村瀬先生の話を聞いた今、彼の「正しさ」は音を立てて崩れ去った。
「俺は、間違ってたのか……?」
 自問する。
 自分が築いてきたもの、自分が信じてきたこと。
 それらが、すべて間違いだったのなら。
 ——じゃあ、俺の10年はなんだったんだ?
 氷がグラスの中でカランと音を立てた。
 その音が、彼の頭の中に響く。
 ——今さら、どうすればいい?