桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

2. 将貴の葛藤
   その晩、将貴はホテルの部屋に戻った。
 だが、ベッドに横たわっても、まったく眠れそうになかった。
 天井を見つめながら、深く息をつく。
「……俺は、間違ってたのか?」
 あの事故の後、彼はずっと「自分が悪い」と思ってきた。
 泰亮や他の仲間たちが責める言葉を投げかけた時、それを否定しなかった。
 否定するだけの力が、自分にはなかったからだ。
 ——だが、本当に自分のせいだったのか?
 10年間、そう信じてきたことが、今日、根底から覆された。
 将貴は、机の上に置かれた村瀬先生のノートを手に取る。
 「10年目の授業」
 そのタイトルが、どこか痛々しく映った。
 ページをめくると、そこには先生の筆跡が並んでいた。
「過去は変えられない。しかし、過去の解釈は変えられる。」
 その言葉を、何度も何度も読み返す。
 ——俺は、俺自身をどう解釈すればいい?
 答えは、まだ見つからなかった。