桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

1. 病院の外での沈黙
   病院を出ると、夕焼けが空を染めていた。
 オレンジ色の光が駐車場のアスファルトに長い影を落とし、冷たい風が吹き抜ける。
 しかし、彼らの足は止まったままだった。
 誰もが言葉を発せず、ただそこに立ち尽くしていた。
 村瀬先生から聞かされた「事故の真実」が、あまりにも重すぎたからだ。
「……マジかよ。」
 しばらくして、泰亮がポツリと呟いた。
「俺たち……何やってたんだろうな。」
 それは誰もが思っていたことだった。
 10年間、彼らは事故の真相を知らぬまま、それぞれが勝手に解釈し、勝手に苦しみ、勝手に誰かを責めてきた。
 だが、事実は違った。
 事故の原因は、「達也自身がステージのセットを触ったこと」だったかもしれないのだ。
 ——それを知っていたら、彼らは違う未来を選べただろうか?
「……こんなの、どうすりゃいいんだよ。」
 泰亮が苛立ちを隠せないまま、拳を強く握りしめる。
「俺たちは、もう一度、向き合わなきゃいけないんだと思う。」
 静かに言ったのは、智香だった。
「10年間、見ないふりをしてきた。でも、それじゃ駄目だったってことだよね。」
 彼女の言葉に、全員が息をのむ。
 ——向き合う。
 それがどれほど困難なことか、彼らは嫌というほど知っていた。