桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

5. 達也の言葉
 
「達也は、事故の直前、私のところに来てこう言ったんだ。」
「先生、俺、ちょっとだけステージのセットを触っちゃったんだ。」
「……え?」
 彼らは、衝撃で言葉を失った。
「セットを……触った?」
「そうだ。」
 先生はゆっくりと頷いた。
「彼は、リハーサルの最中に、『セットの位置が気になったから、ちょっと動かした』と言っていた。」
「それって……つまり……。」
「彼自身が、事故の原因を作ってしまった可能性がある、ということだ。」
 誰もが息を呑んだ。
 彼らは10年間、「誰かの責任だ」と思い続けてきた。
 しかし——達也本人が、それを引き起こした可能性があったのだ。
「でも……でも、それなら、なんで先生は今まで言わなかったんですか?」
 純鈴が、動揺しながら問いかける。
「……それを言えば、お前たちはどうなった?」
 先生の声が震えていた。
「お前たちは、達也を責めなかったか?彼が事故を引き起こしたと知ったら、彼を責めずにいられたか?」
 誰もが、言葉を失った。
「私は、それが怖かった。……だから、言えなかったんだ。」
 先生は、深く息をついた。
「私は、10年間、そのことを後悔し続けてきた。……だから、今、お前たちに伝えたかった。」