桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

2. 村瀬先生からの手紙
　
　封筒を開くと、中には短い手紙が入っていた。
将貴へ
久しぶりだな。突然の手紙で驚かせてしまっていたらすまない。
実は、私は今、病院にいる。あまり時間がない。
どうしても、お前に伝えたいことがある。
できれば、会いに来てくれないか。
村瀬誠司
　将貴は無意識に息をのんだ。
　——病院？先生が？
　村瀬先生は高校時代、彼らのクラス担任だった。厳しくも温かい指導をしてくれる教師で、クラスの誰もが慕っていた。特に、将貴たちグループは彼を「もう一人の親」のように感じていた。
　だが、高校最後の年に起きたあの事故を境に、彼らはバラバラになった。
　そして、先生とも連絡を取らなくなった。
　10年——。
　その間、彼は一度も振り返らずに生きてきた。過去に囚われることなく、ただ前へ進むことだけを考えて。
「……今さら、俺に何を伝えたいっていうんだよ。」
　呟いた声は、自分自身への問いかけでもあった。