桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

4. 事故の真相を知る者
 
 ノートを開こうとしたとき、先生は咳き込み、言葉を詰まらせた。
「先生!」
 智香が駆け寄る。
「大丈夫だ……。」
 先生は、ゆっくりと深呼吸し、苦しそうに微笑む。
「達也の事故のこと……お前たちは、真実を知りたいか?」
 その問いに、全員が息をのむ。
「知りたい……。」
 泰亮が答える。
「俺たちは、ずっと逃げてた。でも、もう逃げるのはやめたい。」
 先生は、静かに頷いた。
「では……まず、一つ、聞かせてくれ。」
 彼は、ゆっくりと彼らの顔を見渡した。
「お前たちは、誰が本当に悪いと思っている?」
 その問いに、誰も答えられなかった。
 10年前の事故——。
 彼らは、誰かを責めることで、自分を正当化しようとしていた。
 しかし、今になって、それが間違っていたと気づいている。
「……俺たちは、ただ、真実を知らなかっただけなんだと思います。」
 将貴が静かに答えた。
「だから、知りたいんです。あの事故で、本当に何があったのか。」
 先生は、少しだけ目を閉じた後、ゆっくりと口を開いた。
「……達也は、事故の前に、あることを言っていた。」