桜ノ丘の約束-10年前の後悔-

2. 文化祭前夜
 
 10年前、文化祭の前日。
 体育館のステージでは、演劇のリハーサルが行われていた。
 この劇は、クラス全員で作り上げたものだった。
 主役を務めるのは、西岡達也。
 明るく、誰からも好かれる少年だった。
「俺さ、これ終わったらみんなで打ち上げしようぜ!」
 達也は舞台の上で笑っていた。
「お前、台詞ちゃんと覚えたのか?」
「もちろん!……たぶん。」
「おい、"たぶん"ってなんだよ!」
 泰亮や将貴がツッコミを入れ、笑いが体育館に響く。
 その光景を見ながら、智香も微笑んでいた。
 ——あの時までは、何もかもが楽しかった。
 しかし、誰も気づかなかった。
 舞台装置の裏で、ある異変が起きていたことに——。