四人で冷やし中華を食べた後、二手に別れてツキさんを探すことになった。
私は雷火さんとペアを組み、七曜邸の近所を探す。
「捜索範囲、もっと広げなくていいんでしょうか?」
私は日傘をさし、隣を歩く雷火さんに話しかける。
「ツキも、今自分がやってることが悪いことだって分かってるだろうし、日和と交代の儀式やんなきゃだから、そう遠くに行きはしねぇよ」
「なるほど」
「それにしてもアチィな。……あのさ、オレの片思いの話聞いて、キモいと思った?」
雷火さんはかぶっていた白のキャップを取ると、腕でひたいの汗をぬぐい、横目で私を見た。
雷火さんの片思いの話……。
『優しくしてもらった、一度会ったきりの名前も知らない子に片思いしてる』話、だっけ。
「いいえ。恋愛小説のはじまりみたいで、素敵だなって思います」
「そ、そっか! キモくねーならいーんだよ! ウン!」
雷火さんはキャップを深くかぶり直すと、私から顔をそらした。
だから今、雷火さんがどんな表情をしているのかは分からないんだけど、耳を赤くしているのは見える。
雷火さんて純な人なんだな。
ちょっと可愛いかも? なんて思ってるのがバレたら、怒られちゃうかな。
雷火さんが一目惚れした相手って、どんな人なんだろう?
きっと絶対、可愛い人なんだろうな。
*
「暑さがヤベェから、コンビニで飲み物買おうぜ」
雷火さんのこの提案に、私は一も二もなくうなずいた。
そこで、七がマークになっているコンビニに入ろうとしたんだけど。
「ごめん。類土から電話きた。先店入ってて」
お店へ入る直前、雷火さんがスマホを耳にあてながらこう言ったので、私は先に一人で中へ入った。
わぁ涼しい! 冷房って偉大だ! 生き返る〜。
飲み物、何を買おうかな? 水かお茶か、それともジュース?
選ぶ楽しさにニコニコしながら、私がドリンクが並ぶ棚の前に立ってすぐ。
「あの……」
左斜め後ろから、男の子に声をかけられた。
「あ、すみません。邪魔してしまって」
謝りながら右へよけつつ、私が男の子へとふり向くと――
「ツキさん?!」
黒のキャップをかぶり、グレーのTシャツに黒のズボン、といういでたちの彼がそこにいた!
「ヤバいよね……太陽二つになるし、七月は二十八日までになっちゃったし……僕のせいだよね……」
ツキさんの両手はぎゅっとTシャツのすそをにぎり、半泣きの瞳は私を見ない。
「僕どうしよう……どうしたら……」
「大丈夫です! 帰って、日和さんと儀式をすれば、きっと元通りになりますよ!」
本当に元通りになるかなんて分からないけど、戻ってきて欲しい気持ちを精一杯こめ、私は言った。
だけどツキさんはビクッとし、唇をかんで一歩後ろに下がってしまい。
……そりゃそうだよね。怖いよね。
ツキさんもこの異常事態に気がつくと同時に、この事態を引き起こしたのは自分のせい、とも理解したんだろう。
自分が子供っぽく拗ねた結果、起きてしまったことの責任の重大さが、怖いんだ。
七曜邸に戻らず、外にいる同じ守護者である雷火さんではなく、部外者の私に声をかけたのも、たぶんそういう理由からじゃないかな。
「そうかなぁ? そうなればいいんだけど……。こんなワケわかんないことに、キミを巻き込んでごめんね……」
「私のことは気にしないで下さい。意味不明に日和さんに連れてこられた最初以降は、自分の意思でからんでますから」
ツキさんの不安を少しでも減らせるよう、私はできるだけ明るく、ポジティブに答える。
「キミは……何でこんな、胡散臭い僕らに関わってくれるの?」
「こんな異常事態、みなさんのこと含めて気にするなって方が無理ですし、心配だからです」
「もしかして僕のことも……ずっと気にしてくれていたりした?」
「もちろんです。こんなに暑いのに、どこに行っちゃったんだろうって、心配してました」
私だけじゃなく、日和さんもスイさんも。
ケンカしちゃった雷火さんだって、きっと。
「そうなんだね……」
キャップのつばをいじりながら、私を上目遣いで見るツキさんの頬が、少し赤い。
さっきまで、顔面蒼白といっても差し支えない顔色の悪さだったんだけど……病気とかじゃないよね?
「ツキさん、一緒に七曜のお屋敷に戻りませんか?」
「それは……うん。そのつもりでコヨミちゃんに声かけたし。僕、月曜日の守護者として責任とるよ」
ツキさんは深呼吸すると、きゅっと唇を引き結び、私の目を見た。
「全部元に戻すから。信じて」
ツキさんが、白くて細いけど骨ばった男の子の手で、日傘を持つ私の手を両手でにぎる。
ツキさんにこうして手をにぎられるの、二回目だな。
相手に気軽にさわるのは、ツキさんのただのクセなんだろうけど……私は男の子にふれられるのなんて慣れてないから、緊張してしまう。
「ハ?! ツキ、お前ッ?!」
私が「信じます」と返事するより早く、電話を終えてお店へ入ってきた雷火さんの叫びが、せまい店内に響きわたった。
*
三人で七曜邸へ戻り、ツキさんは改めて全員に「迷惑かけてごめんなさい」と、謝った。
そしてすぐに日和さんとツキさんで、交代の儀式を行うことになった。
「交代の儀式、部外者が見てもいいんですか?」
「部外者に見せてはいけない、というルールはないので」
疑問に答えてくれたスイさん以外の全員からもOKをもらえたので、私は儀式を見学させてもらうことにした。
ようやく夕方の気配をさせてきた西日が差し込む座敷で、日和さんとツキさんが向かいあう。
二人は互いの両手の手のひらをぴったりとあわせ、声を重ねて呪文をとなえる。
「「七つの星よ巡れ廻れ
時は移り次の星へ
今日を昨日に 明日を今日に
ここから新たなはじまりを」」
これで交代の儀式は完了とのことだったけど、特別なことは何も起こらず。
「儀式後に何も起こらないのは、いつも通りだよ」と、日和さんは言ったけど。
本当にこれで明日、ループから抜け出して、七月十四日 月曜日を迎えることができるのかなぁ?
私は雷火さんとペアを組み、七曜邸の近所を探す。
「捜索範囲、もっと広げなくていいんでしょうか?」
私は日傘をさし、隣を歩く雷火さんに話しかける。
「ツキも、今自分がやってることが悪いことだって分かってるだろうし、日和と交代の儀式やんなきゃだから、そう遠くに行きはしねぇよ」
「なるほど」
「それにしてもアチィな。……あのさ、オレの片思いの話聞いて、キモいと思った?」
雷火さんはかぶっていた白のキャップを取ると、腕でひたいの汗をぬぐい、横目で私を見た。
雷火さんの片思いの話……。
『優しくしてもらった、一度会ったきりの名前も知らない子に片思いしてる』話、だっけ。
「いいえ。恋愛小説のはじまりみたいで、素敵だなって思います」
「そ、そっか! キモくねーならいーんだよ! ウン!」
雷火さんはキャップを深くかぶり直すと、私から顔をそらした。
だから今、雷火さんがどんな表情をしているのかは分からないんだけど、耳を赤くしているのは見える。
雷火さんて純な人なんだな。
ちょっと可愛いかも? なんて思ってるのがバレたら、怒られちゃうかな。
雷火さんが一目惚れした相手って、どんな人なんだろう?
きっと絶対、可愛い人なんだろうな。
*
「暑さがヤベェから、コンビニで飲み物買おうぜ」
雷火さんのこの提案に、私は一も二もなくうなずいた。
そこで、七がマークになっているコンビニに入ろうとしたんだけど。
「ごめん。類土から電話きた。先店入ってて」
お店へ入る直前、雷火さんがスマホを耳にあてながらこう言ったので、私は先に一人で中へ入った。
わぁ涼しい! 冷房って偉大だ! 生き返る〜。
飲み物、何を買おうかな? 水かお茶か、それともジュース?
選ぶ楽しさにニコニコしながら、私がドリンクが並ぶ棚の前に立ってすぐ。
「あの……」
左斜め後ろから、男の子に声をかけられた。
「あ、すみません。邪魔してしまって」
謝りながら右へよけつつ、私が男の子へとふり向くと――
「ツキさん?!」
黒のキャップをかぶり、グレーのTシャツに黒のズボン、といういでたちの彼がそこにいた!
「ヤバいよね……太陽二つになるし、七月は二十八日までになっちゃったし……僕のせいだよね……」
ツキさんの両手はぎゅっとTシャツのすそをにぎり、半泣きの瞳は私を見ない。
「僕どうしよう……どうしたら……」
「大丈夫です! 帰って、日和さんと儀式をすれば、きっと元通りになりますよ!」
本当に元通りになるかなんて分からないけど、戻ってきて欲しい気持ちを精一杯こめ、私は言った。
だけどツキさんはビクッとし、唇をかんで一歩後ろに下がってしまい。
……そりゃそうだよね。怖いよね。
ツキさんもこの異常事態に気がつくと同時に、この事態を引き起こしたのは自分のせい、とも理解したんだろう。
自分が子供っぽく拗ねた結果、起きてしまったことの責任の重大さが、怖いんだ。
七曜邸に戻らず、外にいる同じ守護者である雷火さんではなく、部外者の私に声をかけたのも、たぶんそういう理由からじゃないかな。
「そうかなぁ? そうなればいいんだけど……。こんなワケわかんないことに、キミを巻き込んでごめんね……」
「私のことは気にしないで下さい。意味不明に日和さんに連れてこられた最初以降は、自分の意思でからんでますから」
ツキさんの不安を少しでも減らせるよう、私はできるだけ明るく、ポジティブに答える。
「キミは……何でこんな、胡散臭い僕らに関わってくれるの?」
「こんな異常事態、みなさんのこと含めて気にするなって方が無理ですし、心配だからです」
「もしかして僕のことも……ずっと気にしてくれていたりした?」
「もちろんです。こんなに暑いのに、どこに行っちゃったんだろうって、心配してました」
私だけじゃなく、日和さんもスイさんも。
ケンカしちゃった雷火さんだって、きっと。
「そうなんだね……」
キャップのつばをいじりながら、私を上目遣いで見るツキさんの頬が、少し赤い。
さっきまで、顔面蒼白といっても差し支えない顔色の悪さだったんだけど……病気とかじゃないよね?
「ツキさん、一緒に七曜のお屋敷に戻りませんか?」
「それは……うん。そのつもりでコヨミちゃんに声かけたし。僕、月曜日の守護者として責任とるよ」
ツキさんは深呼吸すると、きゅっと唇を引き結び、私の目を見た。
「全部元に戻すから。信じて」
ツキさんが、白くて細いけど骨ばった男の子の手で、日傘を持つ私の手を両手でにぎる。
ツキさんにこうして手をにぎられるの、二回目だな。
相手に気軽にさわるのは、ツキさんのただのクセなんだろうけど……私は男の子にふれられるのなんて慣れてないから、緊張してしまう。
「ハ?! ツキ、お前ッ?!」
私が「信じます」と返事するより早く、電話を終えてお店へ入ってきた雷火さんの叫びが、せまい店内に響きわたった。
*
三人で七曜邸へ戻り、ツキさんは改めて全員に「迷惑かけてごめんなさい」と、謝った。
そしてすぐに日和さんとツキさんで、交代の儀式を行うことになった。
「交代の儀式、部外者が見てもいいんですか?」
「部外者に見せてはいけない、というルールはないので」
疑問に答えてくれたスイさん以外の全員からもOKをもらえたので、私は儀式を見学させてもらうことにした。
ようやく夕方の気配をさせてきた西日が差し込む座敷で、日和さんとツキさんが向かいあう。
二人は互いの両手の手のひらをぴったりとあわせ、声を重ねて呪文をとなえる。
「「七つの星よ巡れ廻れ
時は移り次の星へ
今日を昨日に 明日を今日に
ここから新たなはじまりを」」
これで交代の儀式は完了とのことだったけど、特別なことは何も起こらず。
「儀式後に何も起こらないのは、いつも通りだよ」と、日和さんは言ったけど。
本当にこれで明日、ループから抜け出して、七月十四日 月曜日を迎えることができるのかなぁ?

