曜日男子とオオカミ少女

七曜邸でお昼をご馳走になった日の夜。
私は、日和さん・ツキさん・雷火さん・スイさんと、プラネタリウムへ行く夢を見た。
天井に投影される星を綺麗だなって見上げていたら、キラキラした粉みたいなものが降ってきて――というところで目が覚めた。
百一回目の日曜日も百回目と同じく、水着を買いに行ってから、七曜邸へ行く予定にした。
(訪問することは昨日の帰り際に、日和さんスイさんからOKをもらったから、昨日みたいに突然押しかけるわけじゃないよ)

「行ってきます」
「ちょっと待って、コヨミ」

私が玄関扉のノブに手をかけたタイミングで、後ろからママに呼び止められた。

「今日も太陽が二つの日で、すごく暑くなるって天気予報で言ってたから、こないだ買ってあげた日傘持っていきなさい」

太陽が、二つ?

「これ持って。ほら、急がないとバスに乗り遅れるわよ。いってらっしゃい!」

聞き間違え? と思っている私の手に、ママが水色の日傘をにぎらせる。
こんな水色の日傘、買ってもらった覚えがないんだけど?
頭の中がハテナマークだらけなまま、私は家を出て――太陽が二つある空を、人生ではじめて見た。



百一回目の七月十三日は、エマちゃんとあかりちゃんが遅刻することはなかった。

「エマちゃん、これかなり可愛いと思わない?」
「可愛いけど、あかりちゃんにはこっちのが似合うと思うなー」

私以外の三人は、はしゃぎながら水着を選んでいるけど、私の頭の中はそれどころじゃない。
二つある太陽と、買ってもらった覚えがない日傘。
前日との違いが昨日の比じゃない、めちゃくちゃに異常な事態が起きている。
これって絶対、百一回目の七月十三日を迎えてしまったせいだよね。ヤバすぎる。
一刻も早くツキさんを見つけだして、日和さんと交代の儀式をしてもらわないと!

「コヨミちゃん、この水着似合うんじゃない?」

心ここにあらずな私の身体に、美桜ちゃんが一着の水着を、ハンガーごと押し当ててきた。

「うん、すっごく似合ってる! この水着買いなよ」
「これはちょっと……私のスタイルじゃ着こなせないから、ナシかな」

美桜ちゃんが押し当ててきた水着は、真っ赤で布面積が少ない、とてもセクシーな物だった。

「そんなことないって、イケるって!」
「無理だよ。それに私、もう買うの決めたし」

私は手に持っていた、今日で買うのが三回目になる水着を盾みたいにつき出し、美桜ちゃんと距離をとる。

「何それつまんなーい! いつもみたいに空気読んで、『そうだね、これにしよっかな』とかいいなよ」

美桜ちゃんが見下す瞳で私を見る。

「どしたのー?」
「別にぃ。何でもなーい」
「美桜ちゃんに似合いそうなの見つけたから、こっち来て!」
「本当? どんなの?」

あかりちゃんについて行く美桜ちゃんの後ろ姿を見送りながら、私はため息をつく。
たぶんこれで、美桜ちゃんから私への本日の意地悪ノルマは終わった、と思う。
……意地悪に慣れることってないんだな。



「今日のメンバーで海かプール行って、今日買った水着着ようね!」
という約束をした後、私は三人に別れを告げ、バスへ飛び乗った。
そして自宅最寄りバス停より三つ先で降り、小走りで七曜邸へ向かう。
あぁ、太陽が二つあるって本当に暑い!
これ、絶対に地球温暖化が爆進みしてるよね。
七曜邸のインターフォンを押せば、今日はスイさんが応対してくれて、屋敷の中へ入れてくれた。

「太陽が二つになっちゃいましたね。これってやっぱり……」
「ええ。同じ日を、百回以上繰り返してしまったせいだと思います」

座敷へと続く長い廊下を、スイさんの後について歩く。

「太陽が二つになっただけでなく、七月が三日も欠けてしまいましたし」
「え?!」
「おや、このことにはまだ気がついていませんでしたか。カレンダーを見てみて下さい」

私はポケットからスマホを取り出し、スケジュールアプリを起動。

「本当だ……七月が減ってる……」

昨日までは三十一日まであった七月が、二十八日で終わってしまってる!
だけど……太陽が二つになったことも、七月が減ったことも、誰も騒いでいない。
買った記憶のない日傘は、買ったことになっている。
常識も過去も変わってしまった……怖い。

「もし明日もループしたなら、七月はもっと減ってしまったりするんでしょうか?」
「ボクはそうなる気がしています。――つきました。うるさいと思いますが、少々我慢しておつきあい下さい」

うるさい? どういうこと?
スイさんは首をかしげる私をチラッと見たが何も言わず、ふすまを大きく開けた。

「迷惑かけてスミマセンでしたっ!」
「うわっ?!」

雷火さんがふすまを開けてすぐの場所で、土下座をしていらっしゃるんですが?!

「朝、引きこもっていた雷火兄さんに異常事態を伝えたら、飛び出してきたんです」
「ここまでのことが起こったらさすがにね。引きこもっている場合じゃないよなぁ」

座卓の所で、グラスに麦茶をそそいでいる日和さんが、苦笑いで言う。

「雷火さん、何故私に謝罪を?」
「刻国サンも、もう関係者だと思うからだ」

土下座したまま、雷火さんが言う。
私も関係者……!
喜んでる場合じゃないけど、仲間に入れてもらえて嬉しい。

「ツキが逃げて行方不明になったのは……オレが奴の秘密をバラしたせいだし。けどよ、どうしようもねぇことで()ねて引きこもったアイツが、元をたどれば悪いと思う……」
「雷火兄さん、本当に反省していますか? 言い訳がましい人間って、みっともないですよ」
「なっ……! オレは本当に反省してる! みっともなくねぇ!」

雷火さんは土下座から、素早く片膝を立てた体勢になり、スイさんに噛みつくみたいに怒鳴った。

「はいはい、もうそれくらいにしとこうね」

日和さんがパンパンと手を叩いてそう言うと、雷火さんはハッとした顔になり、正座に戻る。
よ、よかった。一昨日の雷火さんとツキさんみたいに、ケンカに発展しなくて。

「これからみんなでツキを探して、見つけたら、雷火は秘密をバラしたことをツキに謝ろうな」
「分かってんよ。ツキにもオレのことをキモいって言ったこと、謝ってもらうけどな!」

お互いに謝って、二人が無事仲直りできますように。
そのために私も何かできたらな、と思いながら私はしゃがみ、雷火さんと目線をあわせる。

「雷火さんが天岩戸から出てきてくれてよかったです。またこうして顔を見て話せて、嬉しいです」
「! お、おう……。そうかよ……」
「雷火兄さん、何故うつ向いて両手で顔を隠すんですか?」