スイさんと合流して歩きだしてから、約五分後。
私たちは古くて大きい門の前についた。
今は目の前にある門のせいで見えないけれど、塀沿いに歩いてきたから、門の向こうには立派な日本家屋があると知っている。
表札には『七曜』とあり――つまりここが、日和さんスイさんたち七曜兄弟のお家らしい。
日和さんが門を開けると、建物までの距離が遠い。
さすがお金持ち学校に通う人たちのお家だ……。
「ツキ兄さんが引きこもっているのは、こちらです」
門の内に全員入ると、スイさんが先頭に立って歩きだす。
あれ? 目の前にデーンと建つお屋敷へは行かないんだ?
あれあれ? すごく広いお庭も通りすぎて、どことなくじめっとしている敷地の端まで来たんですけど……これって……。
「ツキ! いい加減出ておいで!」
日和さんが古びた物置小屋の戸をこぶしで叩きながら、中へ呼びかける。
ついていった先にあった物置小屋の壁には、『天岩戸』と黒のマジックで大きく乱暴に書かれていた。
「ツキさんという方は、この中に引きこもってるんですね?」
「今刻国さんは『ボロいし、壊して引きずりだせばいいじゃない』と、思っているんでしょうが、これは天岩戸の力を少しですが宿しているのです。よって、簡単には壊せないんです」
「ソウナンデスネ……」
スイさんの説明に、私は棒読みで返事をした。
日和さんの切羽詰まり感に流され、ここまでついてきてしまったけれど、本気でワケが分からない。
天岩戸って日本神話に登場するもので、天照大御神っていう神様が隠れた場所だよね。
そんな特別な場所の力を、この古い物置小屋が少しだけど宿してる?
……今私、ドッキリ番組のカメラに撮影されていたりしない?
「あのねツキ、月曜日が好きな人を連れてきたんだ!」
ん? 月曜日が好きな人を連れてきたって……状況的に、はじめてここにきている私のことだったりする?
「……本当に?」
物置小屋の引き戸が細く開かれ、中からくぐもった声が発せられた。
「本当だよ。――ね、刻国さん!」
やっぱり私かー!
「えーっと……日和さん、どういうことでしょうか?」
「ツキはね、月曜日が全人類に嫌われていると思っていじけて、引きこもっているんだ」
「へ?」
月曜日が嫌われていることで、いじけて引きこもり?!
私には理解できないけど、ツキさんはめちゃくちゃ月曜日に思い入れがある、ちょっと変わった人……なんだな?
「全人類に嫌われてるなんて、ありえないのにね」
「ありえなくないっ! 日和のそういう偽善者ぽいところ、僕嫌いだっ!」
偽善者って……言葉キツすぎる。
日和さんは苦笑して流してるけど、もし私に言われたんだったら、すごく落ち込んじゃうよ。
「刻国さん。キミはショッピングモールで、『月曜日が好き』だって、お友だちに言ってたよね?」
ど、どうしてそれを知ってるんです?!
私が驚いて目を見開くと、日和さんは少しだけ罰が悪そうに、頬を指でかきながら答えた。
「刻国さんたちは観葉植物が壁になって気がついてなかったけど、俺、カフェでキミらの真後ろに座ってたんだ。だから、キミたちの会話が聞こえてしまって」
確かに私たちは今日、お昼ご飯を食べるために入ったカフェでそういう話をした。
アイスティーを飲んでいた美桜ちゃんが、「早く明日にならないかな?」と言ったのがきっかけで。
「明日月曜日なのに? 美桜って学校好きな人だっけ? わたしはずっと日曜日でいてほしいー」
「うんうん! わたしもずっと土曜日か日曜日がいいなぁ」
美桜ちゃんのセリフにまずあかりちゃんが異をとなえ、エマちゃんがそれに同意。
そしたら美桜ちゃんは「ふーん」と唇をとがらせたあと、私に話をふってきたんだ。
「コヨミちゃんはどう? 月曜日嫌い?」
「私? 私は……月曜日、嫌いじゃないかな」
自分が好きなモノやコトを否定されることや、味方がいないのはしんどい、ということを私は知ってる。
だから学校に行かなきゃいけない月曜日なんて本当は好きじゃないけど、美桜ちゃんの気持ちを否定しない返事をした。
「ウッソ、マジで?! 学校あるのに?」
「ええっと……好きな歌番組があって、推しのアイドルグループがそれによく出るから」
驚くエマちゃんに、私がそれっぽい理由をひねり出して言えば。
美桜ちゃんがにやっと意地悪く口角を上げた。
「へー、コヨミちゃんって月曜日好きなんだ? 珍しいねぇ」
味方になってあげたはずの相手にはしごを外され、私は声がでなかった。
「珍しいって美桜、あんたも『早く明日にならないかな?』って、月曜日好きっぽいこと言ってたよね?」
「そんなの冗談に決まってるじゃん。月曜日が好きなんてあり得ないっしょ」
美桜ちゃんはきゃらきゃら笑いながら、否定を強調するみたいにひらひらと手をふった――という出来事があった。
「あの、その……ごめんなさい。あれは美桜ちゃんの嘘に気づかずに、私が話をあわせただけなんです。私が本当に好きなのは週末で、月曜日は……」
私が首をすくめて歯切れ悪く言うと、日和さんの表情がひきつり――
「嘘つき!日和の嘘つき!やっぱり月曜日が好きな人間なんて存在しないんだ!もう月曜日なんてなくなってしまえばいいんだ!」
ツキさんはヒステリックに叫ぶと、細く開けていた物置小屋の戸をピシャンと閉めてしまう。
どうしよう、私のせいで日和さんを嘘つきにしてしまった……。
「作戦失敗。ツキ兄さんの引きこもり継続ですね」
スイさんが無表情な声で言う。
「……月曜日、好きじゃないんだ?」
日和さんの弱々しい声の問いかけに、私は「すみません」と謝る。
さっき日和さんに、キミは月曜日好きだよね? 的なことを言われた時、思い出してしまったんだ。
お昼に美桜ちゃんに嘘をつかれて、裏切られた時のこと。
そして更にその後、美桜ちゃんとトイレで二人きりになった時、彼女があざ笑いながら言った言葉を。
「コヨミちゃんって、空気読めるつもりで読めてない、ムダに嘘つくオオカミ少女ちゃんだよね!」
これらを思い出したらもう――今日は空気を読むオオカミ少女には、どうしてもなりたくなくて。
私たちは古くて大きい門の前についた。
今は目の前にある門のせいで見えないけれど、塀沿いに歩いてきたから、門の向こうには立派な日本家屋があると知っている。
表札には『七曜』とあり――つまりここが、日和さんスイさんたち七曜兄弟のお家らしい。
日和さんが門を開けると、建物までの距離が遠い。
さすがお金持ち学校に通う人たちのお家だ……。
「ツキ兄さんが引きこもっているのは、こちらです」
門の内に全員入ると、スイさんが先頭に立って歩きだす。
あれ? 目の前にデーンと建つお屋敷へは行かないんだ?
あれあれ? すごく広いお庭も通りすぎて、どことなくじめっとしている敷地の端まで来たんですけど……これって……。
「ツキ! いい加減出ておいで!」
日和さんが古びた物置小屋の戸をこぶしで叩きながら、中へ呼びかける。
ついていった先にあった物置小屋の壁には、『天岩戸』と黒のマジックで大きく乱暴に書かれていた。
「ツキさんという方は、この中に引きこもってるんですね?」
「今刻国さんは『ボロいし、壊して引きずりだせばいいじゃない』と、思っているんでしょうが、これは天岩戸の力を少しですが宿しているのです。よって、簡単には壊せないんです」
「ソウナンデスネ……」
スイさんの説明に、私は棒読みで返事をした。
日和さんの切羽詰まり感に流され、ここまでついてきてしまったけれど、本気でワケが分からない。
天岩戸って日本神話に登場するもので、天照大御神っていう神様が隠れた場所だよね。
そんな特別な場所の力を、この古い物置小屋が少しだけど宿してる?
……今私、ドッキリ番組のカメラに撮影されていたりしない?
「あのねツキ、月曜日が好きな人を連れてきたんだ!」
ん? 月曜日が好きな人を連れてきたって……状況的に、はじめてここにきている私のことだったりする?
「……本当に?」
物置小屋の引き戸が細く開かれ、中からくぐもった声が発せられた。
「本当だよ。――ね、刻国さん!」
やっぱり私かー!
「えーっと……日和さん、どういうことでしょうか?」
「ツキはね、月曜日が全人類に嫌われていると思っていじけて、引きこもっているんだ」
「へ?」
月曜日が嫌われていることで、いじけて引きこもり?!
私には理解できないけど、ツキさんはめちゃくちゃ月曜日に思い入れがある、ちょっと変わった人……なんだな?
「全人類に嫌われてるなんて、ありえないのにね」
「ありえなくないっ! 日和のそういう偽善者ぽいところ、僕嫌いだっ!」
偽善者って……言葉キツすぎる。
日和さんは苦笑して流してるけど、もし私に言われたんだったら、すごく落ち込んじゃうよ。
「刻国さん。キミはショッピングモールで、『月曜日が好き』だって、お友だちに言ってたよね?」
ど、どうしてそれを知ってるんです?!
私が驚いて目を見開くと、日和さんは少しだけ罰が悪そうに、頬を指でかきながら答えた。
「刻国さんたちは観葉植物が壁になって気がついてなかったけど、俺、カフェでキミらの真後ろに座ってたんだ。だから、キミたちの会話が聞こえてしまって」
確かに私たちは今日、お昼ご飯を食べるために入ったカフェでそういう話をした。
アイスティーを飲んでいた美桜ちゃんが、「早く明日にならないかな?」と言ったのがきっかけで。
「明日月曜日なのに? 美桜って学校好きな人だっけ? わたしはずっと日曜日でいてほしいー」
「うんうん! わたしもずっと土曜日か日曜日がいいなぁ」
美桜ちゃんのセリフにまずあかりちゃんが異をとなえ、エマちゃんがそれに同意。
そしたら美桜ちゃんは「ふーん」と唇をとがらせたあと、私に話をふってきたんだ。
「コヨミちゃんはどう? 月曜日嫌い?」
「私? 私は……月曜日、嫌いじゃないかな」
自分が好きなモノやコトを否定されることや、味方がいないのはしんどい、ということを私は知ってる。
だから学校に行かなきゃいけない月曜日なんて本当は好きじゃないけど、美桜ちゃんの気持ちを否定しない返事をした。
「ウッソ、マジで?! 学校あるのに?」
「ええっと……好きな歌番組があって、推しのアイドルグループがそれによく出るから」
驚くエマちゃんに、私がそれっぽい理由をひねり出して言えば。
美桜ちゃんがにやっと意地悪く口角を上げた。
「へー、コヨミちゃんって月曜日好きなんだ? 珍しいねぇ」
味方になってあげたはずの相手にはしごを外され、私は声がでなかった。
「珍しいって美桜、あんたも『早く明日にならないかな?』って、月曜日好きっぽいこと言ってたよね?」
「そんなの冗談に決まってるじゃん。月曜日が好きなんてあり得ないっしょ」
美桜ちゃんはきゃらきゃら笑いながら、否定を強調するみたいにひらひらと手をふった――という出来事があった。
「あの、その……ごめんなさい。あれは美桜ちゃんの嘘に気づかずに、私が話をあわせただけなんです。私が本当に好きなのは週末で、月曜日は……」
私が首をすくめて歯切れ悪く言うと、日和さんの表情がひきつり――
「嘘つき!日和の嘘つき!やっぱり月曜日が好きな人間なんて存在しないんだ!もう月曜日なんてなくなってしまえばいいんだ!」
ツキさんはヒステリックに叫ぶと、細く開けていた物置小屋の戸をピシャンと閉めてしまう。
どうしよう、私のせいで日和さんを嘘つきにしてしまった……。
「作戦失敗。ツキ兄さんの引きこもり継続ですね」
スイさんが無表情な声で言う。
「……月曜日、好きじゃないんだ?」
日和さんの弱々しい声の問いかけに、私は「すみません」と謝る。
さっき日和さんに、キミは月曜日好きだよね? 的なことを言われた時、思い出してしまったんだ。
お昼に美桜ちゃんに嘘をつかれて、裏切られた時のこと。
そして更にその後、美桜ちゃんとトイレで二人きりになった時、彼女があざ笑いながら言った言葉を。
「コヨミちゃんって、空気読めるつもりで読めてない、ムダに嘘つくオオカミ少女ちゃんだよね!」
これらを思い出したらもう――今日は空気を読むオオカミ少女には、どうしてもなりたくなくて。

