曜日男子とオオカミ少女

似てない双子の次に物置小屋へ来たのは、スイさんだった。

「ご迷惑をおかけして、まことに申し訳ありません」

私が物置小屋の戸を開けるなり、スイさんは直角に腰を折って謝ってきた。

「スイさんのせいではないですよ」
「しかし……」
「キスしなきゃこの異常事態は解決しないっぽい、というのは、過去の資料から発見した事実なわけですよね。なら、言わないわけにはいかない。だから、スイさんのせいではないです」

私の本心からの言葉であると伝わったのか、スイさんはようやく頭を上げた。

「刻国さん……あの」
「はい、何でしょう?」

いまだ物置小屋の外にいるスイさんは、一瞬私を見たけれど、すぐに視線をそらした。

「これはどこの資料にも書いていない、ボクの推測なんですが……北斗七星のアザは、産まれつきのものではないのでは? と、考えています」
「日和さんも同じことを言ってました。『「星の巫女」は、巫女として生まれるんじゃなく、何らかの条件をクリアした者が巫女になるのかも?』って」
「ボクと同じ予想を立てるとは、さすが日和兄さんです」
「日和さんは分からないと言ってましたが、スイさんは、星の巫女になる条件って何だと思います?」
「恐らくですが、守護者複数人から好かれた人にアザがでるのではないか? と、考えています」

守護者複数人から好かれた人?!
それって……ものすごく身の程知らずな想像なんですが、七曜兄弟の二人以上が私のことを好き、ということ?
待ちなさい、私! 妄想がすぎるから!
金晴さん・木汰朗さん・類土さんの三人は、私とキスできる程度の好意はあるみたいだから、たぶんそのせいだよ。
――って、キスできちゃう程度の好意って、どれくらいの『好き』なワケ?!
みんなイケメンで優しいからモテモテだろうし、挨拶の延長程度?
それとも……うわぁん! 分からない、彼らのことが分からないー!

「そ、そうですか……」

このことについて深く考えるのは、やめよう。
頭がパンクして、また走り出してしまいそうだから。

「そういう理由から、星の巫女はランダムで選ばれているように見えるのかな、と」
「へぇー……」

私が気まずいので、話題を変えますね!

「スイさん、中で話しませんか?」
「あ、すみません。暑いですよね」

物置小屋へ入ったスイさんは、冷蔵庫の中から水のペットボトルを二本取り出すと、私に一本くれた。
冷たいペットボトルを受け取った私は、喉がかわいていたことに気づき、一気に半分くらい飲み干してしまった。
そんな私を見て、ようやくスイさんがちょっとだけ微笑んだ。

「あの……参考までにうかがいたいのですが、刻国さんは――ではなく、女性はどんな人を好きになるのですか?」

並んでベッドに座るなり、スイさんが聞いてきた。

「今まで恋愛に興味がなかったので、分からなくて。まぁボクみたいなのは論外、ということは分かるんですけど」
「スイさんが論外?! そんなこと絶対ないですよ! というかスイさん、絶対にモテてますよね?」

メガネが似合う、クールで理知的なイケメンがモテないはずがない!

「いいえ。金晴兄さんや日和兄さんみたいに告白されまくられたり、女性にむらがられた経験はないです」

スイさんが思う、『モテ』の基準が高い!
金晴さんのことはよく知らないけど、日和さんのモテ具合は異常ですから!

「バレンタインにチョコはいただきましたが、告白されていないので、義理チョコですし」

嘘だー!
恋愛に興味がなさすぎて、告白されても左から右へ聞き流していたのでは?!
もしくは……

「うーん……スイさんは影でキャーキャー言われる、そういうモテなタイプな気がします」
「影で? ボクが?」

少しも思い当たる節がない、といった様子でスイさんは首をかしげた。

「明日から注意深く、周りを観察してみて下さい。絶対に、スイさんに恋してる人いますから!」
「ボクにとってどうでもいい、興味ない人に好かれても……」

スイさんがムスッとした顔で、ペットボトルの水をちゃぷんと揺らす。

「もしかして、興味ある人がいるんですか?」
「っ! いいえ、いません! 今言ったことは忘れて下さい!」

なーんだ! スイさん、気になる相手いるんじゃない。

「次の質問です! 刻国さんは――女性はデートって、どんな場所に行きたいものなのですか?」

話をそらしたスイさんにつきあい、女の子についてのあれこれを話していると、あっという間に彼との時間は終わった。



「金晴兄貴の命令で、ツキが暴走しねぇように、お目付け役兼ねて一緒に来た」
「僕の信用なさすぎない?!」
「オメーのせいでヤベぇことになってんだから、信用なんてあるわけねぇだろ、ボケ」

スイさんの後は、ツキさんと雷火さんがペアで来た。

天岩戸(ここ)から出た時にも言ったけど、僕の星の巫女になって下さい! コヨミちゃん、好きです!」

物置小屋へ入って戸を閉めるなり、ツキさんが顔を赤くして大声で言った。

「それは、あの……」

人生初告白されてしまった、どうしよう! と、驚きと照れが、瞬時にぶわっと心の中でふくらんだ。
でもそれは、数秒の間だけで。
無意識に、うっすらと誰かの顔を思い出した私の心は、そのふくらみをすうっとしぼませた。
こんな美形とつきあえるチャンスなんて、今を逃したら、きっと二度とない。
だけど、それでも私が出した答えは、「ツキさんの告白には(こた)えられない」だった。

「オイオイ待て待て。テメーはグイグイ行きすぎなんだよ。刻国サン困ってるじゃねぇか」
「は? 何、嫉妬? 雷火は他に好きな子がいるから、ただ僕のお目付け役で一緒に来てるだけなのに、そんなこと言うの? 実はライバルなの?」

ツキさんが雷火さんをジト目でにらむ。

「ち、ちげーよ! オレら出会ってから、まだ今日で四日目なんだぞ。しかもオメーはその内の一日、まるっと行方不明だったし。普通に考えて、刻国サンがツキに一目惚れでもしてない限り、オメーの告白にOKだせるか? と考えたら、無理って話をしてんだよ!」
「ぐっ……」

雷火さんの怒濤(どとう)の早口反撃に、ツキさんが眉間にシワをよせて唇をかむ。

「分かってるし、そんなこと。でも僕、真剣だから!」

ツキさんがあきらめない瞳で私を見る。

「コヨミちゃんにとって今の状況は、ワケ分かんなくて迷惑以外の何者でもないというのは、僕も理解してる。だけど僕は、日和がコヨミちゃんを巻き込んでくれて、ラッキーだったと思ってる!」
「おいツキ、お前――」
「だから分かってるって! 自分が自己中なこと言ってる自覚、ちゃんとある! でも、日和が巻き込んだ相手がコヨミちゃんじゃなかったら、こんなにスムーズに事態は運んでいなかったと思うんだ」

私が「え?」と言うのと、雷火さんが「どういう意味だ?」と言う声が重なった。

「コヨミちゃんが声をかけてくれなかったら、きっと僕は百一回目の七月十三日をここ――天岩戸の中で迎えてた」

ツキさんがせまい室内をぐるりと見回す。

「それで、自分のせいで異常事態になってるって気がついて怖くなって、怒られて責められるのが嫌で出ていけなくなって……力ずくで引っぱりだされるまで、ここにこもってたと思う」
「テメーを天照大御神に例えたくねーけど、テメーを引っぱり出した刻国サンは天宇受売命(あめのうずめのみこと)だな」

天宇受売命って、天岩戸に隠れた天照大御神を、踊りで誘い出した神様だよね。
そんなすごい神様に私を例えるだなんて、恐れ多いですっ。

「だから僕、キミが星の巫女だったこと含めて、コヨミちゃんに運命感じてるんだ」
「……一方的で、勝手だな」
「僕は自己中だって言ってんだろ!――そういうことで、お互いにこれからよく知りあおうって提案するね!」

予告なくツキさんに肩をつかまれ、私の口から「わっ!」と驚いた声がでた。

「ねぇコヨミちゃんはどこに住んでるの? 兄弟姉妹はいる? 好きな物と嫌いな物教えて? 得意な教科と苦手な教科は何? 夏休みになったら宿題一緒にしない? そんでもって旅行も行こうよ! あ、映画見にいくのもいいね!」
「だから許可とらずにさわるな! グイグイ行くな! テメーは迷惑ナンパ師かっ!」
「迷惑ナンパ師の例えは、さすがにひどくない?!」

雷火さんがツキさんの手を私からはがすと、ツキさんがぽかぽかと雷火さんをたたく。
一連の流れが漫才やコントを見ているみたいで、面白くなってしまった私は笑ってしまった。
出会った初日からケンカしてる二人だけど、ツキさんと雷火さんって、実はすごくいいペアなんじゃ?
突然笑いだした私に、二人は呆気にとられた顔をしたけど、すぐにつられたように笑いだした。
笑いがおさまってから、私たちはお互いのことを色々話した。
だけど楽しい時間は、スマホの着信音ですぐに終わりを告げて。

「ほら、ツキ先出ろ」
「ええー。何で僕が先なのさ」

文句を言いながら、ツキさんが物置小屋から出る。

「刻国サン、こんなことになっちまってごめんな」
「ううん。大丈夫じゃないけど、大丈夫です」

申し訳なさげな顔をする雷火さんに、私は笑って答えた。
この二人と、七曜兄弟と、もっと別の出会い方ができていたらな。
でも、もっと別のって……どんな出会い方をしたら、女の子たちの憧れである七曜兄弟と地味子の私が、ここまで仲良くなれる?
別の出会い方なんて、ないのでは?

「あのさ、実はオレが一目惚れしてんのは……」
「雷火、何話してんの! 持ち時間終わったのに、雷火だけ話してんのはズルだよ!」
「今行く!――じゃあな、刻国サン。気ぃ向いたら、オレのこと選んでくれていいから」
「最後にちゃっかりアピールしてズルい! 僕を選んでね、コヨミちゃん!」
「耳元でうるせぇな。オラ、行くぞ」
「放せ! このゴリラ野郎ー!」
「ツキが貧弱すぎんだよ。引きこもってねぇで筋トレしろや」

来た時と同じように、ツキさんと雷火さんが騒々しく去っていく。
――次が最後だ。