鉄の道を越えてー奏と文香ー

第34章: 許しと新たな一歩
学校が終わり、放課後の校舎には静けさが戻っていた。いつものように、他の生徒たちは帰宅し、数人だけが残る中で、文香と奏は校庭のベンチに並んで座っていた。二人の周りを、風が吹き抜け、秋の匂いが漂ってくる。文香は静かに前を見つめ、奏はその隣で少しだけ心の中で整理をしていた。
文香が過去と向き合い、そこから解放されようとしているその瞬間、彼女はこれからどう歩みを進めるべきかを考えているのだろう。奏はその背中を見つめながら、少しずつ言葉を紡いでいく準備をしていた。彼女がどれだけ自分を抑えてきたのか、どれだけ傷ついてきたのかを思うと、今、彼女が選ぼうとしている新しい道がどれほど勇気のいるものかを感じていた。
「今日は、私が話す番だと思う」と、文香が静かに言った。彼女は前を見つめたまま、言葉を続けた。「私がずっと抱えてきたこと、やっと伝えるときが来たんだと思う」
奏は驚いたように顔を向け、静かに言った。「君が話すことで、何か変わるかもしれない。それが何であれ、僕はここにいるよ」
文香はゆっくりと顔を上げ、奏の目をじっと見つめた。その目には、恐れがあり、同時に少しの決意も感じられた。
「私が今まで隠していたのは、あの『鉄の伝説』のこと」と、文香はゆっくりと言った。「私の家系に伝わる伝説…それが私にずっとつきまとっていて、私の行動をすべて支配してきた。でも、その伝説が私を縛りつけ、どんどん孤独にしていった」
奏はその言葉に耳を傾けながら、静かにうなずいた。文香がどれだけその伝説に苦しみ、どれだけその重荷を背負い続けてきたのかを、ようやく理解できた気がした。しかし、それでも文香がそれを話すことで、少しでも心が軽くなるならと思った。
「でも、私はもうそれに縛られたくない」と文香は続けた。その声には、確かな決意が込められている。「今、私はその伝説を受け入れることに決めた。それが私の一部だということを認め、もう怖がらずに前に進む」
その言葉に、奏はしっかりと顔を見て微笑んだ。「その決断を、僕は尊重するよ。君がどんな選択をしても、僕はずっと君の側にいる」
文香はその言葉を受けて、少しだけ息をついた。顔には疲れが浮かんでいるものの、心の中で何かが解放されたような、軽くなった気持ちを感じているのが分かった。
「ありがとう、奏」と文香は静かに言った。「あなたに支えられて、少しずつでも私を取り戻すことができる気がする。今までずっと、私一人で背負ってきたけど、これからは頼ってもいいんだと思う」
その言葉に、奏の胸が温かくなるのを感じた。文香がようやく、心を開くその瞬間に立ち会えたことが、どれだけ大切なことなのかを実感した。
そのとき、校舎の入り口から声が聞こえた。「お前ら、まだいたのか?」
正郎が笑顔で歩いてきて、二人に向かって手を振る。将隆もその後ろから歩いてきた。
「お、文香、なんか顔色が良くなったな!」将隆が冗談を言いながら、文香を見た。「お前、あんなに沈んでたのに、すげぇ前向きになったな」
文香は少しだけ笑って、答えた。「少しずつ、だけど前を向けるようになったんだ」
正郎が二人の前に座り込んで、にやりと笑った。「お前ら、やっぱり相性いいんだな。なんか、見てるこっちまでほっこりするわ」
奏と文香はお互いに顔を見合わせ、静かに笑った。そのとき、心の中で確信した。今までは一人で歩んできた道が、これからは二人で歩んでいけることを。