第2-2章: 鉄の伝説と知られざる関係
冬の冷たい空気が、奏の頬を刺すように感じられる。今、歩いているのは学校を越えて、駅までの道だ。いつも通り、友達と一緒に帰るつもりだったが、今日はそれが少し違う。文香のことがどうしても頭から離れない。昨日の放課後、彼女を見たあの瞬間から、どうしても彼女が抱えているものに引き寄せられている自分がいる。
「おい、奏」正郎の声で、奏ははっとして足を止めた。「また、何か気になることでもあんのか?」
奏は少しだけ顔を上げると、正郎が少し不安げな顔をしていた。「いや、別に」奏は無理に笑顔を作ったが、その笑顔が本心から出たものではないことを正郎は見逃さなかった。
「気になるんだろ?」正郎がもう一度聞いてきた。「昨日もあの子のこと、気にしてたよな?」
奏は黙って一歩歩みを進める。正郎があえて言うから、またそのことが頭の中に蘇ってくる。文香――あの目、あの静かな佇まいにどうしても引き寄せられる。気になるのは、彼女が抱える秘密がどこか不安を煽るからだ。それを知りたい、そう思う自分がいる。
「まあ、ちょっとな」奏は軽く答えたが、その声にどこか焦燥感が滲んでいた。正郎はその様子を見て、しばらく黙って歩いていたが、やがて言った。
「俺も最近、あの子に関する変な噂を耳にしたんだ」
「噂?」奏は足を止めて正郎を見た。その顔が少し真剣になったことに気づき、思わず息を呑む。
「うん、学校の周りでさ」と正郎は低い声で言った。「あの子、実はあの学校の昔からある“鉄の伝説”に関係してるらしい」
奏の胸が一瞬、ドキッとした。鉄の伝説――それは学校内でも語り継がれている有名な噂だ。伝説に登場する人物は、いつも冷徹で、周囲と距離を置く存在であり、誰もが近づけないような存在であると言われている。
「その伝説に関わる人間が、なんで今さら転校してきたのか…」正郎が続ける。「あの子がその後を引き継ぐっていう噂が立ってるんだ」
「まさか、そんなこと…」奏は言葉を失った。頭の中で何かが急激に回り始める。文香がその伝説に関わっている?いや、彼女がその“後継者”だというのだろうか?
正郎はしばらく黙った後、言葉を続けた。「でもな、あの子がその伝説を引き継ぐってだけじゃない。あの子の背後には、もっと大きな秘密がある気がする」
「秘密…?」奏の声がかすかに震えた。その言葉が、どこかで引っかかって離れない。文香は一体、何を隠しているのか。
正郎はさらに言った。「何も知らないほうがいいのかもしれないけど、俺たちも無関係でいられないんじゃないか?」
その言葉が、奏の心をさらに引き裂くように響いた。知らない方がいいという考えが、同時に胸の中でどこか不安に変わっていく。だが、どうしてもその不安を無視できない自分がいる。
その日の帰り道、奏は足早に家に向かっていた。頭の中で繰り返し浮かんでは消える文香の顔。周りの音が遠く感じる。文香が何を隠しているのか、そして彼女がどうしてその伝説に関わっているのか、その答えを知りたくてたまらない。
「どうして、あんなにも引き寄せられるんだ?」奏は心の中で自分に問いかける。その疑問に答えることができないまま、彼は部屋に入ると、窓の外を見つめた。雪が降り続いている中、街灯がぼんやりと雪を照らし、何か神秘的な雰囲気を醸し出していた。その灯りの中に、文香の姿がふっと浮かんでくる。
次の日、学校で再び文香の姿を見た瞬間、奏は歩みを止めた。彼女はいつものように誰とも話すことなく、ひとりで静かに廊下を歩いている。周囲は賑やかで、いつも通りの喧騒が広がっているが、文香だけはその中心から遠く離れた場所にいるように感じられる。その姿に、奏は再び心を奪われた。


