鉄の道を越えてー奏と文香ー

第27章: 迫る影、揺れる心
その日の放課後、校舎の廊下はいつもよりも静かだった。普段なら、放課後の学校は賑やかで、次々と生徒たちが教室を飛び出していく。しかし今日は、どこか張り詰めた空気が漂っていた。文香と奏は、互いに言葉を交わすことなく歩いていたが、二人の間に感じる不安が重くのしかかっているようだった。
最近、文香の表情が少しずつ変わってきた。それでも彼女が心を開いてくれることは少なく、奏はその隙間を埋めるように自分の気持ちを伝えようとした。しかし、どれだけ言葉を尽くしても、文香は一歩引いて、その心の内をなかなか見せてくれない。
その日も、奏は文香が遠くを見つめて歩く姿を見ていた。彼女が一人でいることが多く、奏はどうしてもその姿を放っておけなかった。だが、どうすれば彼女が少しでも心を開いてくれるのか、その答えが見つからなかった。
「文香」と、奏が静かに声をかけた。その声に、文香は少しだけ足を止め、振り返った。だが、彼女の表情は依然として硬く、無表情だった。
「どうしたの?」文香は冷たい声で答えた。その口調には、少しだけ疲れが感じられた。
「最近、どうしてそんなに一人でいるんだ?」と奏が問いかけると、文香はしばらく黙っていた。やがて、少しだけ目を伏せたまま答えた。
「誰かと一緒にいると、面倒事が起こるから」と、文香は言った。「私は、ひとりでいるほうが楽だと思う」
その言葉に、奏は少し胸が痛んだ。彼女がひとりでいる理由を知ってはいたが、それでも彼女が抱えている痛みを少しでも軽くしたいと思っていた。
「でも、それが本当に君を守る方法なのか?」奏は静かに問いかけた。「君がひとりでいることで、どれだけ心が傷ついているのか、僕には少しだけわかる気がする」
文香は少しだけ目を閉じ、ため息をついた。それから、静かに顔を上げて言った。「私は、自分を守らなきゃいけない。でも、あなたが言うように、ひとりでいることが傷つくことになるなら…それでも、どうしていいかわからない」
奏はその言葉をじっと受け止めた。彼女が抱えている心の中の葛藤、それがどれほど深いものであるかを、少しずつ理解しようとしていた。しかし、文香がその痛みを誰にも見せずにいることを、どうしても放っておけなかった。
「君がひとりでいることが辛いなら、僕がその重荷を少しでも軽くできるように、そばにいるから」と、奏は力強く言った。「君が心を閉ざしているその壁を壊すことはできないかもしれないけど、少しでも君が安心できる場所になりたい」
文香はその言葉をしばらく黙って聞いていた。その顔には、揺れるような感情が浮かんでいるのがわかる。しかし、それでも彼女はその感情を隠すように、少しだけ首を横に振った。
「ありがとう」と、文香は小さな声で言った。その言葉には、ほんの少しだけ感謝の気持ちが込められているように感じた。
そのとき、校門の近くから何か騒がしい声が聞こえてきた。すぐにそれがどんな声なのか、奏は感じ取った。文香も、その声を聞いてわずかに反応した。
「また、あいつらか」と、文香がつぶやいた。
「どうした?」奏は少し警戒しながら言った。
「気をつけろよ、あいつらが近くにいると、ろくなことがないから」と、文香は冷静に答えた。その言葉に、奏は少しだけ不安を感じた。
その瞬間、校門の前で数人の不良が集まっているのが見えた。その中には、奏がよく知っている顔があった。悪名高い集団のメンバーで、いつも周囲に問題を起こしている連中だ。彼らの目が、文香に向けられているのを見て、奏の心臓が一瞬高鳴った。
「文香、大丈夫か?」と、奏が声をかけると、文香は冷静に答えた。
「心配しなくても、私なら大丈夫だ」と、彼女は少しだけ振り返り、少し自信を持った表情を見せた。
だが、その表情を見た奏は、やはり何かが引っかかるような気がしていた。文香が一人で彼らと対峙することになるのか、それとも何か別の方法でこの場を乗り越えるのか、それはわからなかった。しかし、奏はその場から離れるわけにはいかなかった。
その時、正郎がやってきた。彼は少し息を切らせて、奏に向かって言った。「おい、あの連中、また何か企んでるみたいだぞ」
「わかってる」と、奏は冷静に答えた。「文香を守るために、俺が何とかしなきゃな」
文香はその言葉を耳にしながら、ゆっくりと歩みを進める。彼女の目には、今までに見せなかった強い意志が宿っていた。
「来いよ、文香。お前のその態度、気に入らねぇんだよな」と、リーダー格の不良が、文香に向かって挑発的に声をかけた。
その瞬間、奏は文香の横に立ち、しっかりと足を踏みしめた。「文香、俺がいるからな。君は何も心配しなくていい」
文香は少しだけ視線を下に向け、その後ゆっくりと顔を上げた。「ありがとう。でも、私は自分でやる」
その一言に、奏は驚きとともに、文香が本当に強い女性であることを再認識した。そして、その覚悟がどれだけ彼女を支えているのかを、心の中で確信するのだった。