鉄の道を越えてー奏と文香ー

第16章: 明かされる過去、揺らぐ未来
放課後、街は徐々に賑やかさを増し、夕暮れの光が静かに街を染めていった。学校の帰り道を歩きながら、奏は文香のことを考え続けていた。彼女が心を閉ざしている理由、そして彼女が選んできた道。それらすべてが、奏にとってただの好奇心ではなく、彼女を少しでも理解したいという気持ちに変わっていた。
昨日、文香が語った過去。それは彼女にとって深く暗い部分で、誰にも打ち明けたくないことだろう。それでも、少しずつではあるが、彼女が心を開いてくれていると感じる瞬間が増えてきた。
街灯がぼんやりと灯り始める頃、奏は再び文香の姿を見かけた。今度は学校から少し離れた場所で、一人歩いている彼女を見つけた。奏は思わず足を速め、彼女に近づく。
「文香、待ってくれ」と声をかけると、文香はそのまま歩みを止める。彼女は少しだけ背中を向けたまま、ゆっくりと振り返る。彼女の目は、どこか冷たい印象を与えるものの、少しだけ揺れ動いているように見えた。
「また何か用?」文香はいつも通り、無表情で奏に問いかける。
「君が言ったことを、もう一度聞かせてほしいんだ」と奏は静かに答えた。「君が抱えているもの、それがどれだけ重いのか少しずつわかってきた。でも、やっぱり君が一人でそれを背負うのはつらいだろう?」
文香は少しだけ黙り込み、風に髪を揺らしながら言った。「だからって、頼ることができるわけじゃない」
その言葉を聞いた瞬間、奏の胸に不安が広がった。彼女がどれほど深い傷を負っているのか、少しずつ理解してきたが、その傷を抱えたまま生きることがどれだけつらいことかもわかってきた。そして、少しでもその痛みを軽くできたらと思う自分がいた。
「頼ることができるなら、僕が君の力になるから」と、奏は優しく言った。「君が一人でいることが、もう痛みを増しているんじゃないかって心配なんだ」
文香は静かに奏を見つめていた。その目に、少しだけ戸惑いが混じっているように感じられる。だが、それでも彼女は無言で前を向き、歩き始めた。
「君が無理に一人で抱えなくてもいいんだ。僕がいるから」と、奏はその背中に向かって言った。彼の声には、強い決意が込められていた。文香は一度足を止め、深いため息をつくと、ゆっくりと振り返り、ほんの少しだけ目を合わせた。
「私、昔から一人で生きてきた」と、文香は静かに言った。その言葉には、何か諦めが混じっているように感じられた。「誰も私を理解してくれないと思ってた。でも、今になって、少しだけ怖くなってきた」
「怖くなってきた?」奏はその言葉に驚き、思わず歩み寄った。「何が怖いんだ?」
文香は少しだけ顔を上げ、遠くの空を見つめる。「私がこれ以上、誰かを傷つけたくないんだ。だから、ひとりでいた方が楽なんだよ」
その言葉が奏の胸に強く響いた。彼女は過去に、誰かを守ろうとして傷つけ、その痛みから逃れようと心を閉ざしていた。それが彼女の深い傷になり、今もその傷を引きずっているのだ。
「君が一人でいることが、傷つけない方法だと思ってるかもしれない。でも、それは君が自分を犠牲にしているだけだよ」と、奏は優しく言った。「君がひとりでいることで、君がどれだけ辛くなっているのか、わかる気がする。でも、僕は君が一人でいる必要なんてないと思う」
文香はその言葉をじっと聞き、少しだけ目を伏せた。「でも…私は、もう誰も傷つけたくないんだ」
「それなら、僕が君を守る」と、奏はしっかりと言った。「君を傷つけることなんてない。君が怖い思いをしなくてもいいように、僕がそばにいるから」
その言葉に、文香は少しだけ表情を緩めた。目を閉じて、静かに答えた。「ありがとう。でも、私はまだ怖いんだ」
奏は少し黙り込み、その言葉をじっと受け止めた。それでも、心の中で強く決意する。彼女がどれほど怖がっていても、少しずつでも寄り添っていけるように、これからもずっとそばにいようと。