【中】酸いも甘いも、イケメンぞろい。



 カチャ、と扉の開く音がして、あ、と思う。

 結局なんの話をしてたのかよく分からないけど、出ていっちゃった。

 先輩たちもお兄ちゃんの名前を呼んでたし、声の人も“望羽”ってわたしのこと呼んでたから、お兄ちゃん、なんだよね…?


 なんだったんだろう、今の、と考えこんでいると、段ボール箱のふたが開いて光が入ってきた。

 少しまぶしくて、くり返しまばたきをしながら起き上がる。




「お疲れさま、望羽ちゃん。静かにしててえらかったわ」


「あ、ありがとうございます…あの、今のって…」


「茅都の裏の顔だ。…藤一(ふじいち)


「はいッス!」




 段ボール箱のなかでひざ立ちしていると、犬丸先輩がスチールラックに隠していたスマホを回収して、少し操作してからわたしに画面を見せた。

 そこに映っていたのは、にこりともしていない冷めた表情だけど、間違いなくお兄ちゃんで。

 さっき聞いた会話が、そっくりそのままスマホから流れてくる。


 やっぱりあの声は、お兄ちゃんだったんだ…。